同じ家から同じ学校に行く。
するとメリットでありデメリットでもある問題が発生する。


『お兄ちゃん…いないなぁ…』


ここは2年生の教室の並ぶ2階。
名前はあるものを片手に兄である拓人を探していた。
見知らぬ他学年の人が目の前を行き交うもののお探しの兄は見つからない。

サッカー部の見知った誰かに会えればいいのだが休み時間が始まってから運が悪いのか如何せん出会うことができないでいる。
次の休み時間にしようかな…と名前が階段を下ろうと踵を返した時に、"ねぇ"と声をかけられ振り向いた先には見知らぬ男子生徒が3人程。


「君、神童くんの妹でしょ?」
『え?はい。そうですけど…』

「やっぱり〜!へぇ、本当にそっくりなんだな」


神童と言う名が出たということはこの男子生徒たちは2年生なのだろう。
物珍しそうに名前を見る男子生徒たちは下心を持って名前に近付いているのだが当の本人は全く気付いていない。


「なに?神童探してんの?」
『そうなんですけど…見当たらなくって……』


もう一度辺りを見回してみるけどその姿は一向に見当たらず。


「じゃあオレらが手伝ってあげよっか?」
『いいんですか「お、名前ー!!」
『あ、浜野先輩!』


下心丸出しな申し入れを受け入れる直前、聞き慣れた声がして名前がひょっこり顔を出せば浅黒い肌とゴーグルが見えた。
男子生徒2人の横をするりと抜けて浜野の元へ小走りで駆けていけば、兄にこの話が渡ればヤバイと思ったのかそそくさと逃げていく男子生徒2人。
別に浜野は意図的に名前を助けようと思ったわけでも拓人にこの事を告げる気もない。
浜野はただ単にそこに名前がいたから声をかけた、というだけだ。


「どったの?ここ2年の教室じゃん」
『あのですね…お兄ちゃんとこれ間違えて持って来ちゃったみたいで…』

「これ?…あぁ〜体操服か!」


神童、と書かれたそれは確かに"神童"のもの。
ただし名前ではなく拓人の。


「ラインの色しか違わないもんな」
『そうなんです…サイズの大きいお兄ちゃんのを私が着ることはできても…お兄ちゃんが私のを着るのは無理なんで…』


先程の体育の授業で間違って持ってきてしまっていたことに気付いた名前は午後から体育だと言っていた兄の為にこれを届けに来たのだ。
流石の兄でも物理的に無理なものを着ることはできないだろう。
綺麗に畳まれた体操服を胸に抱いたまま階段を駆け上がってきたはいいが珍しく兄の姿が見つからず、現在に至る。

浜野は手に持っていた紙パックのミックスジュースを呑気に飲みながら話を聞いていたがあ、と声を上げて紙パックから口を離した。


「っちゅーか神童のクラス今日ずっと移動ばっかだけど」
『え?じゃあどうしよう…』
「なら俺が渡しとくぜ?」

『いいんですか?』
「おー」


うなだれようとした名前にサラっと救いの手を差し伸べて浜野は体操服を受け取る。


「ま、クラス隣だし体育前に渡せるっしょ」
『ありがとうございますっ』


直後鳴り響くは予鈴のチャイム。
顔を上げた名前は失礼します!、と慌てて階段を駆け下りようと本日2度目となる道を戻ろうと背を向ける。



「あ、そだ名前。お礼なら名前の手作りクッキーでいいから!」



そんな呑気な浜野の声を背中で聞いて、何味のクッキーを作ろうかなぁなんてこっちも呑気な気持ちになってしまう事に名前はクスリと笑ってしまった。






呑気な気持ちは君譲り

(お兄ちゃん、浜野先輩から体操服貰った?)
(あぁ。わざわざありがとう名前)
(よかった〜)
(……で、名前。………その今作っているクッキーは…?)

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