台風の通り過ぎた次の日のこと。
足元には無数の水たまりが蔓延り、人の行き道を邪魔するようなそんな日。
いまだスッキリと太陽を見せてくれない空は何をするにも億劫にさせる。


「はぁ…」


だが彼にはそんなこと関係なしにいつでも億劫な気分だろう。
雷門のグラウンドは芝な分乾きやすい。
早々に開始された朝練に更に速水の気分は下がってしまう。

それにプラスして足場の悪い状態で放たれたボールはこれまた運悪くグランドから遥か遠くへ飛んでいってしまった。
倉間が蹴った筈のボールはなんのとばっちりか速水が取りに行くことになってしまった。


「なんで僕が…」


悪態を付こうとも言葉は空に溶けてしまい意味はない。
渋々とボールが飛んでいったであろう方向に足を向ける。

この辺に飛んでいった筈、辺りを見回しお目当てのボールを探す。



『…もしかして、捜し物はこれ?』
「え?」



ガサりと音を立てて。
速水の後ろにお目当てのボール片手に立っていたのはクラスメイトの苗字名前だった。


「あ、そうです。邪魔してすいません…」

『…それは私に?それともこの子?』
「え?」


この子、と言って名前が差し出したのは植木鉢に植えられた1輪の花。


「この子……って…」
『そう、この子。』
「植物…ですよね?」

『うん。でもこの子はちゃんと生きてるし喋ってるの』


植木鉢にほほ笑みかける名前は実は少し不思議っ子で有名な人物だった。
こうして植物に話しかけることは今の通り、動物などにもよく話しかけたりもしているのだ。
それ故にクラスからは浮いた存在になりつつある名前。



『だって聞こえなくても伝わる物ってあるでしょ?』



ボールを受け取った速水に微笑みかける。
抱えている花に並んで、形容する通り花のような笑顔だ。

思わず速水の方が顔を赤くしてしまい、ボールを持った手が硬直した。


『サッカーでも言うしょ、ボールは友達って』
「…あぁ…」


ボールが自分たちと同じ、だなんて考えたこともなかった。
そういう柔軟な発想ができるのが彼女の長所であり世間から浮いてしまう由縁なのだろう。


『それと一緒。ボールにも植物にも動物にも心があって皆私たちと一緒なの!』


だから速水くんもね、とボールを一撫でして自分を横切っていく名前に速水はポカンとした視線を向けつつボールに残った温もりを感じた。





ありのままを生きていけ
(そんな貴方らしさが大事なの)

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