―昔々、あるところにシンデレラと呼ばれた可哀想な女の子がおりました。

意地の悪い継母に育てられ、意地の悪い義理の姉達に囲まれ、こき使われる日々を過ごしていました。



「シンデレラ!何をしているの!」
『申し訳ありません篤志おばさま!』

「シンデレラ!ここにまだホコリが……ってなんでオレらこんな役回りなんだよ…」
「っちゅーか南沢さんノリノリじゃね?」
「……」
「倉間、目が死んでるって」



掃除をすればわざとそこを汚され、小さな汚れを発見されれば罰を与えられる。
だが、そんな日々を送るシンデレラは誰よりも美しい心をもっていた。
何を言われてもそれをこなし、継母達の小言をねじ伏せる。

無意識のうちに行われる嫌がらせにも、嫌がらせるする継母たちにも見せるのは笑顔。

そんなある日、家に届いた一通の手紙。


『おばさま!お城からお手紙が届いています』

「手紙?」
「へぇ……舞踏会か…美味いもん食べられるんだな!」
「浜野…お前それしか頭にないのか…」
「シンデレラ!お前はドレスを3着用意しなさい!」
『3着…ですか…?』
「えぇ、お前は留守番よ!」

「「(南沢さん……)」」


流石にお城に招かれ家で留守番、というのは少し寂しいものがある。
だが叔母の言うことは絶対。
やむなくシンデレラは美しいドレスを3着用意することとなった。

美しく着飾れた継母と姉達。
舞踏会に行っている間には家を更に掃除しておくように言われたシンデレラは自分以外誰もいなくなった家をせっせと掃除していた。


『おばさまたちは…今頃…』


楽しい舞踏会に思いを馳せてシンデレラはため息を漏らす。
誰よりも人を思いやり、誰よりも一生懸命な彼女になぜこんな仕打ちをせなければならぬのか。


「そんなお前に救いの手を!」
『え?あ!?霧野先ぱ「俺は魔法使いだ!
ったく…さっきまでちゃんと役作りしてたくせに…急に元に戻るな!」
『あ、すいません…(霧野先輩…衣装可愛い)』


現れた魔法使い(霧野)思わず声を上げてしまったシンデレラに魔法使いのお説教が降りかかる。
それでも少し口元が上がってしまうのは霧野の容姿故か。
くどくどと続くお説教。
ストーリーの流れはどうした、そう突っ込むことも忘れて時間が流れていく。


「………〜〜オイ!」
『っふぁああ!マサキくん!』「狩屋!?」

「お前ら話長過ぎんだよ!!今何時か時計見ろ!」
「『あ……』」


マサキの登場に同様を隠せない2人だったが時計を見れば既に時間は11時30分を指していた。


「なんで先輩が行っといてこうなるんだ!」
「…悪い狩屋…」

「ったく……もういい!帰るぞ名前!」
『ひゃ!』


劇のセットに足を踏み入れシンデレラ、もとい名前を姫抱きにして早足に去っていく。


『ま、待ってマサキくん!着替えないとまだ服ボロボロだし…』
「そんなこと気にすんなよ」
『でも…』
「大丈夫だって」


言うやいなや、マサキが名前の口を自分のそれで塞いだ。
少し乱れた前髪を避け、マサキは笑う。


「名前はどんなカッコしてたって綺麗だからな」


恥ずかし気もなくそんなセリフを言ってのけるマサキにシンデレラに登場する王子様なんかよりもカッコイイ。
そう思いつつ名前はまるで魔法をかけられたように動けなくなってしまった。





魔法がかかる数秒前

(…俺の出番は…?)
(泣くなよ神童)

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