いつもならサッカー部の練習を見に行ったところだけど今日は委員会があるからって鶴正を見送ったのが数時間前。
委員会終わったら行くから待ってて、と言った私だったけど予想外に委員会が長引いてしまった。

こんなことになるならあんな仕事受けとかなきゃよかったとか思ったのは後の祭りなんだけど。

もう帰っちゃったかな、と思ってケータイを開けてみたら新着メールが数件。
フォルダを開けてみたらいくつかはどうでもいいメルマガだった。
いつもならメルマガのクーポンとかに反応するところなんだけど正直今はどうでもいい。

残り一件、勿論相手は鶴正で。



"部室で待ってるから"



簡潔な内容はめんどくさいことを嫌う鶴正らしい。
でも受信時間をと現在時刻を見比べてみたらあらビックリ。


『そんな早く部活終わってたの…!?』


既にかなりの時間が経過していた。
これで鶴正がまだ帰ってなければ私はほぼ1時間ほど鶴間さを部室に待たせてることになる。

一緒に帰りたいけどこんな待たせるんなら早く帰ってくれてよかったのに…!



『鶴正ー!』

バンッ


「「しー」」
『……へ?……っと、あぁ』



慌てて部室に駆け込んだ瞬間に今度は慌てて口を塞ぐ。
倉間くんと浜野は一緒に部室に残っていたらしい。2人同時に口元に当てられた人差し指に反応する。

静かに部室内に響いているのは鶴正の寝息。

話を聞けば待っている間に疲れて眠ってしまったそうな。



『うっわ…待たせちゃったよねぇ……』

「結果的に名前来たからいいんじゃね?」
『いやそうなんだけどさ…』

「ま、あとはよろしく」
『え』
「じゃ!そゆことで頑張れー」

『ちょ、ちょっとー!』


子声でこんな会話が交わされた後、薄情者2人はそそくさと部室を出ていった。
ということで部室には私と机に突っ伏して眠りこける鶴正。

気持ちよさそうに寝てるっていってもずっとこのままってわけにはいかない。
門が閉まる時間は刻一刻と迫っているのだ。
私たちも2人に続いて早くここをオサラバしないと。


『…鶴正、起きてー』


最初は控えめに攻めてみる。
肩をゆすりながら言ってみたけど効果はないみたいだった。

もうこんな時に限って…!



『鶴正ーつーるーまーさー!!』

「…ん、」

『起きて!門閉まっちゃうよ!』



うっすらと目を開けたのを見て畳み掛けるように声をあげたけどまだ目がぼーっとしてる。
鶴正…起きて…る…?


「名前……」
『わ!』


まだ夢と現実が混濁してるのか、唐突に腕を引かれた私は次の瞬間鶴正の腕の中にいた。
練習後、しかもほんのり睡眠までとった鶴正の体はあったかくて。
ちょっとドキッとした瞬間、顎に手をかけられる感触。



『んっ……』



塞がれた唇。紡ぐことができるのはほんの僅かな短い母音だけで。
滅多にこんなことしない鶴正からのキスに目を見開いたけどすぐに鶴正に委ねるように目を閉じた。

息が苦しくなってきたのか鶴正側から終わりを告げられたキス。
離れていった鶴正の表情が徐々に変わっていく。



「な、な……え、うそ、名前…!?」

『…夢だとでも思ってたんでしょ』
「……………はい」



うん。やっと頭覚醒したんだね。

真っ赤になった鶴正は途端に頭を抱えてしゃがみ込んだ。
そんなに恥ずかしいなら夢だと思っててもしなけりゃいいのに…。
(まぁそれが可愛いとか言ってやらないけど)


『よーし!じゃあ鶴正帰りにアイス一個奢りね!』
「え、えぇ!?」

『さ、帰るぞー!』


しゃがみ込んだ鶴正の手を引いて強引に鶴間さを立たせて部室を駆け出た。
鶴正は不服そうな顔をしてたけどその代わりちょっと可愛い鶴正が見れたからいいや。

でもアイスはきっちり奢ってもらうよ!






代償は貴方で結構です!

(なんで僕が…)
(私にキスした罰ですー)
(う……)


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