愛を相手に伝えることは難しかった。
と言うより、自分の気持ちや思いと言った形の無いものを形にするということは人が誰しもぶち当たる課題だ。
私も例外ではない。
こんなにも彼が好きなのに、目の前にいるのに、


『…すき』


聞こえたか聞こえてないかもわからない小さな声で愛を紡ぐ。
私を後ろから抱きすくめていた蘭丸は私が何かを言ったということだけを認識したらしい。
どうした?と問われ私はなんでもないと答えた。

だって、言った言葉は聞こえなければ意味がない。
言葉という形にしたってそれは空気に飲み込まれていく。
寂しい…という感情よりか虚しいと形容したほうがしっくりくるこの気持ち。
蘭丸の温もりを感じながら私の体に回された彼の腕に触れてみる。


『蘭丸、あったかいね』
「どうしたんだよ急に」

『んーん。なんでもない』


その温もりは確かに蘭丸の温もりだった。
体だけじゃない、心までもを温めてくれる蘭丸は魔法使いみたいなんてバカみたいなことを考えてみる。

なんでもないの一言に私が込めた思いはいっぱいあった。
でもやっぱりそれは相手に届かなくて。
形ない水をすくっても溢れていくような、そんな感じ。
"水"も"蒸気"も同じ液体なのに姿形が違うみたいに。

見かけは可愛いくせにやっぱり私よりも骨ばった手。
触れている蘭丸の手から伝わる熱。
同じ人なのにこうも私たちは違っている。
私はそれがどうしようもなく怖いのだ。
違いと言う大きな亀裂がどんどん大きくなるのが、蘭丸が私から離れて行くんじゃないかって思う。


「名前」
『なに?』

「…愛してる」


私に回されている手にギュッと力がこもるのを感じた。
もう。蘭丸という魔法使いは心の不安までも読み取ってしまう程になってしまったのだろうか。

なんでこんなに、蘭丸の言葉からは形にならない愛を感じるんだろう。



『私も愛してる』




温もりから通じるのは確かに蘭丸からの愛だった。
不思議。
私からは伝えられないのに彼からは愛を感じられる。

なら、ずっとずっと蘭丸の隣に入れば私は愛を感じることができるのかな…なんて。




そんなことを考えて私は背後へ振り返り不意打ちで蘭丸にキスをした。





形なき愛を

(私の愛が、あなたに伝わりますように)


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