勉強をしている時や授業中。
ノート教科書を開く為に首を下を向けるとハラリと耳にかけたはずの髪の毛が落ちてきた。
視界に入り込んできたその髪は鬱陶しい以外の何者でもない。

イラついてそれをもう一度耳にかけても落ちてくる落ちてくる。
もう、とイラついてピンで止めて授業に集中したことは何度もあるだろう。
授業が終わってイラついている間に進められてしまった分を写させてもらおうと同じクラスの、ついでに言うなら隣の席の友人に声をかけた。


『ねぇ典人、ノート貸して』
「はぁ?なんでだよ」

『前髪止めてる間に黒板進められてたの』

「ったく…」


多分理由を言わなくたって貸してはくれるのだろうが彼の性格上理由を聞かざるを得なかった。
手渡されたノートにありがとーと席に付こうとした時、ふと倉間をもう一度見やる。


『典人ってさ…前髪邪魔じゃないの?』

「前髪?」
『てか、それ以前に前髪見えてるの?』


自分が今まで悪戦苦闘していた前髪。
明らかに倉間の左目は髪の毛で隠れている。
それなのに何の不自由もなさそうに平然としている倉間に名前は驚き、そして疑問を隠せなかった。
ノートなどそっちのけで倉間の前髪を指さし倉間の顔色をうかがいながらゆっくりとその前髪に手を伸ばす。


『絶対これ邪魔じゃん…』
「別に不便じゃねーし」
『…そういう問題じゃなくってさ!』

「っげ!」

『ちょ、動かないでよ!』
「イテテテ!おい掴むな!」


名前がヘアピン片手に倉間の前髪を摘み上げた。
何をされるかなんとなく察した倉間は脱することを試みたが動けば動くほど引っ張られ毛根は痛む。


『あ、ちょっと抜けた』
「ンの乱暴女!」


口からほぼ反射的に飛んだ暴言だったが名前は気にせず倉間の前髪をピンで止めていく。
倉間も自分から痛い思いはしたくない。
ジッと名前が満足いって手を止めるのをひたすら待った。
一方の名前は鼻歌を歌いながら倉間の前髪をゴムでヘアピンで弄り倒す。
男の倉間からしたら何が楽しいのかとも聞きたくなるが楽しいのだろう。


『できたー!はい鏡』

「…は!?」

『あー!!!何取ってんの!』
「うっせぇ!誰がこんなファンシーにしろって言ったよ!」
『いいじゃん可愛いじゃん!』


まさかリボンのついたゴムで括られるとは思いもしなかった。
スッキリした視界からまた水色の影。
別に見えなくたって支障はないその左目に名前は不満そうな顔をする。



「なんでそんな不満そうなんだよ」

『だって典人の目ちゃんと見たいもん』



頬を膨らませてもう一度前髪を弄ろうと名前が手を伸ばす。
名前の言葉に目を丸くした倉間。
そしてはぁ、とため息を一息
ノート貸すだけだったのにどうしてこうなったんだろうか、と思いながらももう名前のされるがままにされることにした。

抵抗のなくなった倉間にありがと、大好きと囁いてもう一度名前は控えめに前髪を弄り出すのだった。





交われ視線

(前髪そういうことしてるからあだ名が鬼太郎なんだよ)
(殴るぞ)


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