『あれ?速水くん、海士は?』
「浜野くんなら今日は休みですけど」

『…えぇ!?』



そんなやり取りをした昼休み。
海士のいる隣のクラスにやって来たら目的の海士はいなくて。
速水くんに聞いてみれば今日は海士は朝からいない、つまり休みだという。


『あの元気だけが取り柄な海士が…?』
「なんでも風邪らしいですよ」

『嘘だ』


でも馬鹿は風邪を引かないっていうけど夏風邪なら馬鹿が引くものか。
ポンと手を打って一人納得。
と言うか、彼女にぐらいメールしなさいっての。

海士が休みだと知った今、とりあえず私はキャプテンである神童くんのクラスに向かった。
見舞いに行きたいから今日の部活を休んでいいかと許可を取るためだ。
神童くんの事だから駄目と言わないとは分かってるけど、一応報告はしないとね。


『神童くん!今日海士が風邪引いて休みらしいからお見舞い行ってもいいかな?』
「浜野が風邪?」
『やっぱりそこ突っ込むよねー。そうらしいよ』

「わかった。浜野によろしく言っといてくれ」
『了解!ありがとう神童くん』

あっさり許可を貰っていたら午後の授業が始まるチャイム。
午後の授業は海士に何も持ってくか考えてたらいつの間にか終わってた。
安直かもだけど行き道でスーパーに寄ってスポーツドリンクを買う。
やっぱりお見舞いならこれかな。

何度か来ている海士の家だけどこのインターフォンを押すのはどうにも慣れない。
そうも言ってられないのでボタンを押せばピンポーンと間抜けな音が響く。
する必要のない妙な緊張に胸を打ちながら待つもなかなか返事は来ないしドアが開く気配もない。

しばらく待っていよいよどうしようかと思っているとガチャっとドアの開閉音。


「………名前?」
『かっ、海士!駄目じゃん起きたら!大丈夫なの!?』

「いや〜…今親が仕事と買い物でいないからさー……」

『とにかく早く中戻る!』


いつも気ままなフラッとした足取りな事はたまにあるけどこれは酷い。
支えた肩は熱いし息も荒い。
ヘラリと笑ってはいるけど相当辛いと思う。

海士の部屋のベッドに病人を押し込んで買ってきたスポーツドリンクを取り出す。



『ほら海士、飲める?』

「キツい……あ、でも名前が口移しで飲ませてくれるんなら飲めるかも」
『はぁっ!?』



畜生。こんな時でもバ海士は建材らしい。
やっぱ夏風邪って馬鹿がひくんだ。絶対そうだ。



『っもう!!』



でも今回はそうも言ってられない。
今の海士は馬鹿は馬鹿でも病人なのだ。
もうどうにでもなれ。腹を括ってドリンクの蓋を開けて少し甘いドリンクを口に含み、海士に口付けた。
ゆっくりとではあるが海士がそれを飲み下すの待って、口を離す。



『…風邪移ったら、海士のせいなんだからね』

「だいじょーぶ。名前は頭いいから夏風邪移ったりしないって」
『そーゆー問題じゃないと思うんだけど』

「ま、細かい事は気にしない気にしない」


やっぱり海士は馬鹿だ。
改めてそう思うけど、そんな海士に惚れてる自分も心底馬鹿だと思う。



「夏風邪ひかない頭いい名前は、まだ俺の風邪貰ってくれるっしょ?」



もう、夏風邪でもただの風邪でも貰ってやろうじゃないの。






お馬鹿な夏風邪さん

(あれ、浜野もう治ったんだな)
(んー?名前の熱烈な看病のおか(海士!!)
(?)


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