『…監督』
「おっ?今日はどうした、名前?」


ふらりと掴み所のない言動、行動である種サッカー部では有名な名前。
無口で無表情。何を考えているのかいまいち理解できない事が多いが、大雑把というか何と言うかフィーリングで名前の事を理解し懐き懐かれている人物がいた。

それが監督、円堂守だ。

そんな円堂が羨ましいと思いつつなかなか距離を縮める事の出来ない一同がもだもだとすることも少なくはない。



「また監督ですか…」
「しゃーないっしょ。監督の方もなんやかんやで名前溺愛っぽいし?」



速水と浜野が言えば必然的に周りに他の者も集まる。


「確かになんか顔緩んでるよな」
「…なんか名前が娘みたいに見えてくるな」
「でも名前がくっつくのはどうにかならないのか?」
「…無理なんじゃないかなぁ…」
「っちゅーかキツくね?」


いつの間にやら集結していた2年生達だったが、話の中心である名前は円堂と何かを話している。
その様子を会話をしつつ見やっていたが、会話を終えた次に発せられた円堂の声に全員が目をギラつかせた。



「おーい、誰か名前のドリブルの相手してやってくれー!」



話の内容は名前が新しいドリブル技を開発したから見て欲しい、とのことで。
固まっていた2年生一同、仲良く素早く名前の元へ一直線。
だがその表情は本気だ。


「名前、俺が相手してやるよ」
『霧野先輩、が?』
「いや霧野、お前一昨日パス回ししてただろ。今日は俺がやろう」
『…神童先輩?』
「ま、待ってよ神童くん。神童くんこの前キャプテン命令って名前とコンビ組んでたじゃないか」
『……速水先輩?』
「そう言う速水は明日コンビ組む約束してんだろ」
『…倉間先輩…?』


「ほら、いがみ合ってないでさっさと決める!名前が混乱してるぞ!」



さりげなく名前の頭を撫でながらまるで子沢山の父親の様に皆を諭す円堂。
名前の無表情からは読み取りにくいが円堂の言う通り、少しだけ見て分かる動揺が見えた。



「んーじゃ、名前!俺とやろうぜ!」
『…はい。浜野先輩』

「「「「……はぁっ!?」」」」

「いいじゃんいいじゃん!俺しばらく名前と組んでねぇし」



確かに浜野はここ最近も、明日明後日のコンビも久しく名前とは組んでいない。


「なら名前!浜野!早速やるぞ!」

「ほいほーい」『はい』



陰陽対照的な返事をしながら、円堂を筆頭に2人は駆けて行った。
背後にいるドス黒いオーラを背負った皆などには一切目も暮れず浜野は控え目な名前の手を引く。


『あの…浜野先輩』
「んー?どったの名前?」


『………また、練習付き合って下さい』



余り表情を表に出さない名前が、少しだけ笑った気がした。
浜野はニカッと笑い、その手を引いて勿論!と返事を返すのだった。







呼応する白と黒

(ところで、どうして俺?)
(…監督に似てるから)



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