汗が滴り落ちる暑い日が続くと外に出るのも億劫になる。
だがそれは外が暑いからであって室内が涼しいとは限らないもので。
基本的クーラーやらなんやら、近代的な技術力を侮って貰っては困るというものであるがそれも力を発揮してこその快適な日々。
光熱費と言うギブ&テイクの元成り立っている関係だがギブがなければテイクもなくテイクがなければギブもない。


「…どうして冷房入れてないんだ?」
『ごめん今ウチのクーラー壊れてるの……忘れてた』


先に言えば今日は自分の家に呼んだのに。
そう思うのも後の祭り。
既に名前の家に来てしまったからには拓人にとってもう一度外に出ると言う考えは消えていた。


『あつい…』


部屋で項垂れる名前の目の前に、拓人は行き道で買ってきたコンビニの袋をガサリと音を立てて目の前に付き出す。



『それ…!』
「アイス。食べるだろ?」

『さすが拓人!大好き!』



抱き着いてくる名前を悠々と受け止めながら暑くても無理に引き剥がすことはなかった。
なんだかんだで拓人も名前に甘い。


「買ってきて正解だったな。どっちにする?」
『ソーダ!』


さすがにしばらくしたら名前も暑くなったのか体を離しコンビニの袋に飛びつく。
意気揚々と水色のパッケージのアイスを取り出し袋を若干乱暴に破る。
外の熱気のせいで少し溶けていた甘く冷たいアイスを舐めればヒンヤリと広がる冷気。

『美味しい〜!』

向かいでコーラ味のアイスを同じように頬張る拓人だったが、違う味のものを目の前で食べられては気になるというもの。

『拓人、そっちの一口頂戴!』
「自分のがあるだろ」
『えぇ〜…コーラも欲しい』

一度は拒否する拓人だったが、もう一度言おう。彼は名前に弱いと。

「…一口だけだからな」
『やった!』

かじったアイスを差し出せばそれにパクリとかぶりつく。
大分涼んだのであろう、項垂れていたのが嘘のような爛々とした様子にアナログな冷涼になる手段であるアイスに敬意すら表したくなる。
1口が大きいのではないか、とも思ったがまぁいいかと見逃してしまう。
美味しそうにそれを堪能する姿を見れば何とも言えない。

だがやられて終わるのはどうにも癪に障ったので今度は拓人から名前に近づいた。


「じゃあ俺も1口貰うぞ」

『へ……っん』


口に広がる冷たい感触と同時に感じる熱い吐息に一瞬理解の遅れた名前だったが、目の前にある拓人の整った顔にキスをされた事に気付いた。
じんわりコーラとソーダが混ざり合う。
離された唇をぺろりと舐めて拓人は笑う。


「…冷たいな」


先程より涼んだ体で火照った名前の体を抱き締める。
食べかけのアイスが虚しく落ちるがした。





炭酸 Blue Spring

(私のアイス……)
(また買ってやるよ)

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