目を閉じて頭に壮大な世界を描く。
それが音楽の不思議と惹かれる要因の一つじゃないかというのは俺の勝手な言い分。
でもそれはあながち間違いではない。
音が与えるこの壮大な気持ちは決して嘘ではないから。


『ーッ!!』


調子よく流れていた音が急に歪んだ。
目を開くと左手を掴んで表情を歪ませた苗字先輩。



「どうかしたんですか!?」

『なんでもないっ!』



初めて声を上げる先輩を見た。
慌てて椅子から立ち上がって近寄ろうとした俺。足はすっかり止まってしまった。
その事に先輩自身もハッとしたのか俺に聞こえるか聞こえないか程の声量で『ごめんね』と一言呟く。




『本当に…なんでもないの』




嘘じゃなかった、苗字先輩の今にも泣き出しそうな表情。



『ちょっと手がつっちゃっただけ』

「本当ですか?」
『………うん。』


返事に空いた少しの間が、俺をその言葉を信じさせることをしなくなった。
何かが普通と違う。この人の隠してることの何かが。





「名前?神童?」





沈黙を切り裂いたのは俺でもなく、苗字先輩でもない。


『篤志?』


南沢先輩だった。





協奏曲第3楽章
(俺とあの人の秘密の関係がバレた日)

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