初めに感じたのは違和感。
後に起こったのは何とも言えぬ感情だった。


「へぇ〜名前センパイってそんな人なんですね」
「そうなのよ!普段はあんなな癖に笑っちゃうでしょ!」
「というか名前にこんな可愛い後輩いたんだ〜いいな〜」
「見た目もカッコイイし!」
「おだてても何もでませんよ」

『…狩屋…アンタ何してんの?』


堪らずに私から声をかけてしまった。
狩屋に群がってた友達達があー名前おっそーいと私の背中を押す。
狩屋の前に押し出されて、目の前にいる狩屋と目が合った。

そこにあるのはいつもの憎たらしい笑顔じゃなくて貼付けた笑顔。
見慣れないその笑顔は気味が悪いとすら感じるレベルだ。


「マサキくん、名前探してたんだって!」
「こんな可愛い後輩置いてどこ行ってたのよ!」

『どこって…トイレだけど』

「いいんですよ。名前センパイと結局会えたんですし」
「マサキくん健気ー!」


囃し立てる友達。
なぜか慣れたようにそれを促す狩屋。
どちらも気持ち悪い、拭いきれない違和感があった。

違う。狩屋はこんな奴じゃない。


『…狩屋、私に用があるんでしょ』
「あ、そうですよ名前センパイ」

『……ちょっと皆移動教室先行っといて貰っていい?』
「狡いわよ名前〜」
「そう言わないの。先行ってるわよ」
『うん』


そういって友達を先に教室へ送り出す。
残ったのは私と狩屋の2人だけ。
狩屋との別れを惜しむように友達は手を振り、狩屋もそれに笑顔で対応していた。

廊下の角を曲がり、友達の姿が完全に見えなくなって。
化けの皮というか、貼り付けていた笑顔が剥がれた。


『なに薄気味悪い』
「薄気味悪いとは失礼な。こっちの方が人当たりは良いでしょ?センパイ」


自分に向けられた笑顔に鳥肌が立った。
思わず自分の腕を擦って鳥肌を収めようとする。
嫌味っすかと言われたけどこれは嫌味じゃなくて切実な問題だ。


『気持ち悪い』


真顔で言ってやった。
だって思ったことは事実だし私にはあの作り笑顔は違和感の対象でしかない。
違う人前ではずっとあんな感じなのか、あんな偽りの笑顔で生きてきているのか。
少し怖くなった。
狩屋のあんな笑顔を見るとは思わなかったから。



『それに…いつもの憎たらしい狩屋のほうが好きだし』



言った後に『あ』と思ったけど狩屋は目を見開いて名前を見つめていた。


「そんなこと言ったの名前センパイが初めてですよ…」
『え?』


狩屋の顔が下を向き、微かに口が動いていたが何か言ったのかはわからなかった。
聞き返したけどもう一度その口が言葉を紡ぐことはなく。

次の瞬間顔を上げた狩屋はまたあの憎たらしい笑顔に戻っていた。







作り笑いなんて似合わない

(じゃ、これからも遠慮なく)
(…うっわ憎たらしい)

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