円堂監督に励ましの言葉をノートに書いて貰った日から円堂監督は私をよく気にかけてくれるようになった。
(あれが励ましの言葉だと言うのは文字が読めなかったから本人に聞いたんだけどね)
皆に指示を出しながら私に声をかけてくれるのはとてもありがたい。
でも同時に少し申し訳なくなってしまう。
ノートの厚みが増していくに連れてその気持ちが募っていく。


『…茜ちゃん…』

「なぁに?」
『監督…迷惑じゃないかなぁ…?』


タオルを畳む手を休めず、茜ちゃんに聞いてみた。
一瞬茜ちゃんの手が止まったように見えたけど、私は手を止めずに返答を待つ。
茜ちゃんは相変わらずほんわかした空気を纏ったまま案外あっさりと笑いながら作業を再開した。


「監督はそんなこと思う人じゃない」
『……そうかな…』

「そう。だったら、聞いてみるのが1番」
『本人に…?』
「うん」


監督なら大丈夫、と茜ちゃんから言葉の後押し。
最後のタオルを畳み終えてたら、丁度休憩時間になった。

今まで畳んでたそれを持って汗をかいてお疲れな皆に配っていく。
葵ちゃんがドリンクを配ってくれていく中、私はタオルとドリンクの1セットを作り視線を右往左往させる。
そして視線の先にロックオン。
あ、と声を漏らした矢先に茜ちゃんに背中を叩かれた。
(行けって笑顔で訴えてる…気がする)

まだ整頓はついてないけど、茜ちゃんのおかげで私も監督なら大丈夫だと思えてきた。


『…ちょっと行ってくるね』

「うん。いってらっしゃい」


ベンチからするりと出て行って監督の佇む側に小走りで駆け寄っていく。
近づく度に心拍数が上がるのがわかった。

一心にグランドとデータの詰まったバインダーを見つめている監督に目が眩みそうになる。


『監督、これどうぞ』
「お、いつもありがとうな」

『それで……あの…監督』
「ん?どうした?また何かわからないことでもあったか?」


その言葉がぐさりと突き刺さる音がした。



『えっと…その…そのことなんですけど…私、迷惑じゃないですか?』



聞いちゃった聞いちゃった…!

思わず顔が下を向く。
呆れられたらどうしようとか頭に巡ることはマイナスなことばかり。
あのノートに書かれた励ましも右から左にすり抜けていきそうで。



「何言ってるんだ。頑張ってる奴が迷惑なわけないだろ!」

『っわ…!』



上げられなかった頭に監督の大きな手が降りてきた。
わしゃわしゃと髪を乱され思わず前のめりになる。


「大体、そんな奴じゃなかったら俺だってこんなに構わない」
『…う…』


あの太陽の様な笑みに言葉が詰まった。
やっぱり好きだなぁなんてこんなところで再確認。
撫でられている頭から伝わる熱が熱くなる。

バレてないかな、大丈夫かな、とドキドキ高鳴る胸を抑えた。

だがこんな浮き足立った思考は次の瞬間で打ち砕かれることになるだ。





「それに苗字は大事なチームメイトなんだからな!遠慮なく頼れ!」





そう。
私と円堂さんは

"監督"と"マネージャー"というチームメイトでしかないのだから。





突き刺さる笑顔

(その笑顔は大好きな筈なのに)
(限りない闇を見ているような)

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