あの日から毎日私は茜ちゃんのお手伝いに託つけてサッカー部の見学に来ている。
一応音無先生と円堂さんに許可を取りに行ったら笑顔でいいぞって言われて直視できなかったのは内緒。
相変わらず茜ちゃんは神童くんを見ていたけど、今ならちょっとその気持ちがわかるかもしれない。


「よし、いいぞ天馬!次はドリブルからのパスだ!」
「はい!」

「神童!攻守の切り替えは早く!」
「はい!」


ベンチからだと背中しか見えないけど円堂さんが生き生きとしてるのがなんとなくわかる。
やっぱり伝説って言われるぐらいだし、好きじゃないとやってらんないんだろうな…。
ホントは教える側じゃなくてやる側に行きたいんじゃないか、なんて思ってみる。
でも纏う空気はやっぱり大人で、思えば思う程胸は高鳴っていくばかりだった。

不謹慎かもだけど円堂さんがサッカーに関わってると言うだけで今まで興味のなかったサッカーが輝かしいものに思えてくる。
学校の授業のサッカー、ちゃんとしてなかったのが物凄い恨めしい。


『ちゃんとやっとけばよかった…』

「なにが?」
『授業のサッカー。ちゃんとやっとけばよかったと思って』


正直なところルールとかもいまいちわかっていない。
とりあえずボールをゴールに入れるもの、ぐらいの認識。


『ルールとかわかんないし』
「…名前、どうしたの?」

『え、なんで?』

「だって今までそんなこと言わなかった」

『…あ』


そういえば、周りから見れば私がサッカーに興味を持ったのは突然のことだ。
茜ちゃんが首を傾げているけど、おそらくそれが普通の反応だろう。
まさか監督に一目惚れしたからとは言えないし…。



「なにかあった?」
『まぁ、あれ、ほら!監督も新しくなってサッカー部も心機一転したからさ!』

「…そっか」



我ながら苦しい言い訳だったけどあながち間違いじゃない。はず。
そんな話をしていたら「休憩!」という円堂さんの声が聞こえた。
私を含むマネージャー陳がベンチに下ろしていた腰を上げドリンクとタオルを渡していく。
円堂さんもいるかな、とちょっと緊張しながらボトルとタオルを片手に円堂さんの元へ向かう。


『円堂さん!あの、これ』

「おう!サンキューな」


円堂さんの笑顔はやっぱり眩しい。
恥ずかしくて俯き気味でボトルを渡せばちょっと手が触れて思わず手を引いてしまった。


「マネージャーじゃないらしいが、苗字はサッカーに興味あるのか?」
『え、はっ、あ、はい!!』

「そうか」


ボトルとタオルを回収する為に隣に立ってたら不意に話を振られて思いっきり間の抜けた声で返事をしてしまった。(恥ずかしい…!)
話から察するにどうやらさっきの会話が聞こえていたらしい。

やばい、はいって言っちゃったよ。サッカーのこと全然知らないのに…!
興味があるのはホントだけどさ…!


『でも私、サッカーのこと全然わからなくて…それでもいいんでしょうか…?』
「何言ってるんだ!そんなのこれから知っていけばいいじゃないか」

『る、ルールとかも…』
「わからないことがあったら俺に聞きに来い!」



神童とか…あと音無とかもきっと教えてくれるぞ、と渡していたけど使われていない真っさらなタオルを私の頭にかけてその上から髪を乱される。



『わっ!』
「ははっ、待ってるぞ苗字」







どこまでも爽やかに立ち去っていく円堂さんに、私の胸はまた高鳴っていく。


あぁ、届くはずなんてないのにな。
なんだか追い掛けてみたくなってしまう。

一歩一歩は小さいけど、貴方を追い掛けてみても…いいですか?





貴方はまだまだ遠いけど


(茜ちゃん、私正式にマネージャーになる!)
(なんか名前、最近可笑しい…?)
(失敬な!)

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