漫画やドラマみたいな恋に憧れていた。

別に遅刻寸前、食パンをくわえてながら走っていたら曲がり角でイケメンとぶつかって恋に落ちる、なんてのになりたい訳じゃなく。
ただ私の心を打つ誰かが現れないかな、と願っていた。

乙女なら一度は憧れる夢。
だけどそれは将来の夢、とか叶える為の夢ではなく完全に他人任せな夢。
叶えられる人の方が圧倒的に少ないと思う。


でも私は見つけたの。




「今日から雷門中サッカー部の監督になった、円堂守だ!」




私の心を揺さぶる貴方と言う存在を。








その日私は友達の茜ちゃんに朝練のお手伝いをして欲しい、と頼まれてマネージャーの仕事を手伝っていた。
サッカーに興味はないけれど、茜ちゃんの頼みならとなんやかんやで1年生の葵ちゃんも加わりながらマネージャー教務をこなす。
今までにも数回やったことのある仕事だ。
何でか知らないけどこの場にいない神童くんが気になるのか茜ちゃんはどこか上の空だし。

こんな時恋する乙女は可愛いと思う。
私もそんな恋がしたいなぁなんて、まずは相手がいない。


『あ、タオル足りないみたいだから持ってくるね』
「あ、すいません名前さん!」


葵ちゃんにそう告げて部室までを駆ける。
体力には自信がない訳じゃないけどある訳でもない。
でも早くしないと休憩時間になってしまうのは確かだ。

足りない分のタオルを抱えて来た道を走る。

すると前方に見慣れない姿の男の人。
オレンジ色のバンダナに逆立った髪。
なんだか見たことがあるような、ないような…?




『あの、どうかされましたか?』




辺りを見回している用だったから後ろから声をかけてみた。
(肩でも叩きたかったけどタオルで両手が塞がってたからそれは無理だった)
こちらを振り向いてくれたみたいだけど生憎太陽の位置が悪かったのか顔が見えない。



「あぁ、第二グラウンドを探してるんだけどちょっと道がわからなくてな」

『第二グラウンド…?私今から行くんで良かったら案内しましょうか?』
「本当か?」



この人の言う第二グラウンドは今サッカー部が使ってるグラウンド。
それを探しているってことはサッカー部の関係者?
でも道迷ってるみたいだし…?どうなんだろう。




『見かけない方ですけど…サッカー部の関係者ですか?』




思い切って聞いてみた。
そして言葉を発した直後、少し陰り出した空のおかげで見えた男の人の全貌に、目を見開く。
だって、だって





『俺は円堂守。雷門中サッカー部の新監督だ!』






目の前にいた男の人は、あの有名な円堂守で。

そしてその太陽みたいな眩しい笑顔に、私の心はときめいてしまった。









初めまして私の王子様

(まさかあの有名な円堂さんに恋するなんて)
(思いもしなかった)

●●


- ナノ -