結局、名前は戦う道を選んだ。 そして約束したんだ。 俺たちは生きて、戦って、愛し合っていくことを。 「霧野!」 「どうした神童」 「どうって…今日名前の手術の日だろ…?こっちにいていいのか?」 運命の日はやって来る。 今日は名前の手術の日。 俺は練習試合の為にグラウンドに立っていた。 「いいんだ。アイツがそれを望んでるから」 名前は俺に手術の日は来ないで欲しいと言ったから。 『蘭ちゃんには…蘭ちゃんにしかできない戦いをして欲しい』 だからここに立っている。 フィールドでしか、俺にできない戦いはない。 戦うことで、俺は名前と繋がっているんだ。 きっと勝てる。勝たなきゃいけない。 拳を握り締めて、その手を開く。 やっとの思い出つかまえた、名前をこの腕でもう一度抱きしめるまでは。 「名前ちゃん……本当にいいの?」 『何がですか?』 「何って…霧野くんのこと…」 手術室に運ばれていく途中。 看護婦さんに心配そうな瞳で聞かれた事に、私は笑顔で返す。 『蘭ちゃんも戦ってるんです。だから私も……負けないよう戦います』 本当はどうしようもなく怖いし、本当は震えるこの手を握っていて欲しい。 でも、蘭ちゃんは約束してくれた。 「勝って…お前を迎えに行くから」 嘘も偽りもない。 私なんかよりずっと逞しい手で抱き締めて、交わした約束は指きりなんていらないぐらい固い。 だから私は絶対に生きて、蘭ちゃんのあの腕に飛び込んでいく。 あの温もりに抱きしめてもらうまで。 私は死ねないから。 霧野蘭丸は病院へとひたすら走っていた。 足には擦りむけた跡があり、ユニフォームは泥だらけになっているが本人はそんなこと微塵も気にしていない。 試合が終わってからすぐに拓人が背中を押してくれたのだ。 「俺たちに構わず…行ってやれ」 拓人だって名前と蘭丸の幼馴染だ。 俺と名前の事情を知っているのは拓人だけだというのに。 それなのにこうして背中を押してくれた。 その好意を無駄には出来ないから。 格好だって形振りだって構ってられない。 真っ直ぐに病院に向かって走る。 時間は既に夕方。空は茜色に染まる頃。 試合なんかよりある意味過酷な一本道を走り抜け、病院付近の河原に差し掛かった時。 蘭丸は思わず足を止めた。 「あれは………」 -・-・-・-・-・-・-・-・-・- 蘭丸が病院についたのはそれからしばらく経ってからだった。 「霧野くんっ!?」 「あのっ……!名前は…!苗字名前の手術は……!」 「とりあえず落ち着いて霧野くん。貴方が倒れたら元も子もないのよ」 肩で息をして、ボロボロになった蘭丸に病院の受付にいつもいた看護婦は蘭丸の背をゆっくり撫でる。 蘭丸の息がやっと落ち着いたとき、看護婦はポンと蘭丸の肩を叩き、ゆっくりと口を開く。 同時に蘭丸がゴクリと息を飲んだ。 「名前ちゃんの手術は無事に成功したわ」 「それじゃあ……!」 「えぇ。早く行ってあげて」 「ありがとうございます!」 病院に迷惑にならないくらいの声を張り上げ行き慣れた病室までの道を辿っていく。 これ程までにあの病室までの道が遠いと思ったことがあっただろうか。 「名前っ!!!!!」 大きな音を立ててドアを開ける。 今はここが病院だとかそんなことを考えている余裕がなくなっていた。 夕日で反射する白い病室に、見慣れた人影。 『蘭…ちゃん……?』 「名前!!!!」 『蘭ちゃん!!!』 肩にかけたままのカバンが床に落下した事も気にせず、窓枠から外を見つめていた名前を思いっきり抱きしめた。 『私……私、ちゃんと勝ったよ…。生きてる、よ』 「あぁ…俺も勝ったよ」 『うん…信じてた』 蘭丸は名前の肩に。名前は蘭丸の胸に顔を埋める。 互いに顔が見えないままただただ小さな嗚咽と声が篭っていく。 「名前……」 『なぁに?』 「これからは…ずっと一緒にいられるんだよな」 『…うん。一緒にいてあげる』 「上から目線かよ」 『もう絶対にしょうがなく一緒にいるなんて言わせないんだから』 どうやら罪悪感から一緒にいたということにはまだ怒っている節があるらしい。 だが蘭丸は笑ってそれを促していく。 それを促してでも、名前を幸せにしてみせると決めたから。 腕の中に収まる名前の温もりを。 ずっとずっと守っていく。 「名前に……言いたいことがあるんだ」 『…改まっちゃって…何?』 これからもずっと 「"俺のものになってください"」 『……!』 貴方の隣にいたいから 「受け取って…くれるか?」 『…はい……喜んで…!』 蘭丸が差し出したもの。 2人の間には一輪。 四つ葉の花びらの付いたクローバーが風に揺れていた。 センチメンタルラブ (ずっと貴方と一緒にいれるなら) (俺はあなたのものになりたい) (私はあなたのものになりたい) _ |