全速力で病院までの道をかけ抜ける。


部活は休むと言った。
神童は言わずともわかってくれた。

幼い頃の小さな捻れが大きく歪んでしまった今。
過去は変えれずともきっと今なら。
…俺だって少しは成長した。
もう気持ちを誤魔化さずに言える筈だ。

伝えてやる。俺の思いを、俺の全てを。




「あの…名前……苗字名前と今面会は…!」




それでもやっぱり怖いと思ってしまう自分。
少し上がった息。

いつも通り受付に面会を申し込めば今なら大丈夫だと言われたので周りに迷惑にならない程度の早歩きで名前の病室を目指す。





『先生…っ!それって…』
「…すまない、それが今の限界なんだ。」

「(…?)」





病室の目と華の先、名前の声ともう一人…おそらく医者の先生であろう人の声が聞こえて思わず足を止める。
限界…?
なんの話か全く掴めなくて一人思考を巡らせた。

焦った様子の名前に俺はまさかと1つの答えを導き出す。
違っていて欲しいと願うもその願いは儚く散った。






「手術の成功率は50%…。失敗したら……間違いなく命を落とすだろう」



ドサッ


しまったと思った時には既に俺の腕から鞄は滑り落ちていた。
音を立てて名前の病室前の廊下に落下する俺の鞄。



『蘭、ちゃん…!?』



その音に俺の存在を察知して目を丸くした名前がこちらを凝視している。

来るなって言われたたのに来てしまった俺。
そして明らかに聞いてはいけないことを聞いてしまった。

もうそろそろ頬ひっぱたかれても文句は言えないぐらいの事を俺はしてると思う。



「…じゃあ、この話はまた親御さんたちも交えて…」
『あ、…はい……ありがとうございました』



空気を悟ったのか先生はカルテや広げられていた資料をまとめて病室を去っていった。
俺と名前の間に張り詰めた空気が流れる。
…気まずい。かなり気まずい。



『……もう来ないでって言ったのに』



…いきなりの確信を突いた言葉が突き刺さる。



「………悪い」
『…聞いちゃったんだね』


『だから……来て欲しくなかったのに』



名前が俯いてベットのシーツを握る。
あぁ、やっぱりこいつも心の奥は変わっていない。
結果がどうとも分からない、俺にこれを聞かせたくなかったんだろう。
聞きたいか聞きたくないか、言われたらそりゃあ不幸な知らせは聞きたくなかった。

手術の成功率…半々のそれは完全に賭けに近い。
でも逆に言えばまだ終わっったわけじゃないということ。



「手術……受けるのか?」

『……わから、ない』



名前の声は震えていた。





『……怖い、怖いよ。生きたいけど死にたくない…っ』




人前で弱音を吐くことが嫌いな名前が珍しく見せた本音の弱音。
声と一緒に肩を震わせて、それでも涙は流さない。

どうしてお前はそんなに何も言わないんだろう。




『蘭ちゃん…?』

「…俺じゃ名前の支えにはなれないのか……?」
『え?』


「名前が好きだ」



前よりか幾分痩せてしまった名前の体を思いっきり抱きしめる。
こんな風に言うはずじゃなかったのに、
もっとカッコつけて言いたかっただなんて男気はもう捨ててきた。

名前はまだいなくなっていいような人間じゃない。
どっちかというと俺が逝かせたくないという気持ちが勝っていたかもしれない。
それでも、それは名前の背中を押してやりたい。

たとえ半分の確率だとしても、
辛くなるのは名前だとわかってても…俺の我侭だとしても…。





「手術、受けろよ名前」


『……!』




瞬間、爽快に病室に響いたのはパンッという乾いた音だった。






いつだって俺は

(どうしてこうなんだろう)

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