久々に病院に行く前花屋に寄ってみた。 最近はあんまり見舞いで花を持って行くことが少ない。 大抵は練習で疲れてるから寄るのが少し面倒だと言うのが理由だったが生憎今日は練習は休み。 一応神童も誘ったが三国さんと話があるらしく、神童を連れていくのは惜しくもまた今度となる。 目につく色とりどりの花。 見舞いに持って行ってはいけない花がある、と最近知った俺はとりあえずそれは避けて何かいいものがないかを探す。 (実は一度花選びには失敗済みだ) 何にしようか悩んだ挙げ句店員の人に見舞い用に、と言って花束を包んでもらうことにした。 ふわりと香る小さめな花束を抱えながら俺は病院までの道を歩く。 そんな香りに、なんで見舞いに花を持って行くのかが分かる気がするなんて柄にもなく思った。 いつもの用に面会の手順を踏み、名前の病室まで慣れた道程を進んでいく。 ガラリ 『わっ』 ドアを開けた瞬間聞こえた声に少し驚いたが、目の前に立っていたのは花瓶を抱えた名前。 「何してんだよ、寝てないと駄目だろ」 『その…蘭ちゃんがお花持ってきてくれたって看護婦さん電話の時教えてくれたから先に水入れとこうと思って…』 空の花瓶を抱えてた理由はそれかと理解するとまず花束を机にそっと置いて名前をベッドに誘導。 その際名前の腕から引ったくった花瓶を持って俺は一度背を向けた。 「俺が行くから、ちょっと待ってろ」 後ろからはーいと間の抜けた返事が返ってきて、ちょっと俺の間も抜けた。 この流れも慣れたもので、水道で花瓶に水を入れてきたら俺の持ってきた花束を手にとっている名前の姿。 ちょっとは大人しくしといて欲しいもんだ。 『おかえり!ありがとう』 「どーいたしまして。ほら花瓶入れるぞ」 『ちょっと待って。もうちょっと堪能したい』 何を、と聞く前に思いっきり聞こえる鼻をスンスンと鳴らす音。 あぁ香りかと納得して花瓶を机に置いた。 目を閉じて臭いを嗅ぐ名前は妙に幸せそうな表情をしていて。 買ってきて良かった、なんて単純な俺は財布にとってはよろしくないまた買って来るかと言う思考に至る。 『今回も失敗しなかったね!合格!』 「そりゃどーも。俺だって学習ぐらいするさ」 『とか言ってわからないから店員さんに選んで貰ったりしたんでしょ』 …バレてる。 沈黙は肯定と捉えられたのかまだまだ甘いねーなんて頭を小突かれる。 『紳士ならマナーとか花にしても花言葉とかまで気にしなきゃ』 「花言葉?」 『そ!例えば……』 まず俺は紳士になるつもりはないんだけどな…。 言葉は口に出さずに花束を指差して名前は言った。 あれぐらいなら俺でも分かる。 「向日葵?」 『向日葵の花言葉はね、"あなただけを見つめる"なの。太陽の方を向いて育つからだろうね』 「あなただけを…見つめる……」 ギュッと胸が締め付けられる気がした。 きっと名前が花言葉に詳しくなったのも俺がこの病室に名前を閉じ込めてしまったせいだろう。 罪悪感に苛まれた心に、自分の正直な恋心。 俺はまっすぐに名前を見つめているのだろうか。 『蘭丸?どうかしたの?』 「…いや、なんでもない」 表情に出ていたのか、顔を覗き込まれた。 名前に心配はかけられない。 いや…かけてはいけない。俺に名前に心配かける資格はないのだから。 『ならいいんだけど…じゃあこれあげる!』 差し出されたのは一輪のクローバー。 ただのクローバーじゃなくて、その葉の数は4枚。 所謂四つ葉のクローバーと言うヤツだった。 『今日病院の庭で見つけたの』 「いいのか?」 『うん!』 それを頂戴してから名前にクローバーの花言葉を聞いてみた。 そしたら名前は『秘密』と悪戯に笑う。 『あ、花言葉調べちゃ駄目だからね』 「は?」 『いつか私が教えてあげるから、それまで待ってて』 そう。俺がそのクローバーの花言葉を知る事になったのは大分先の事だった。 ちっぽけな花に込めた願い (蘭丸、クローバーの花言葉はね) ( ) ------- 向日葵の花言葉とか色々間違ってたら申し訳ない。 ●● |