始まりは3年前―…
俺と神童、そして名前が小学5年生だったあの日からだ。
いつもの様に神童の広い庭でサッカーをしてて、3人でボールを追いかけてた。


「いくぞー!」
『うん!』


楽しかった。
あの何気ない日々が。


「霧野!こっちだ!」


そう、あの日までは。


「あ!」
『蘭ちゃんどこ蹴ってるのー!』
「そう言うなよ。名前、霧野、探しに行こう!」


俺の蹴ったボールが神童の屋敷の高い壁を越えて飛んでいく。
慌てて3人で屋敷から飛び出してぐるりと神童の屋敷周りを1周した。
どこに飛んで行ったのかもわからない。
ただのボール1つ。されどボール1つ。

子供だった俺達にはそれが宝物だった。
サッカーをしていると、心を繋いでくれるボール。

少し空が赤くなってきた頃もう1周だけ、と屋敷周りをくまなく周る。
もう半ば諦めた時、ようやく見つけた俺たちの宝物。




「あった!!」



夢中だった。
ボールを見つけた事に舞い上がっていた。

だから気付かなかった。




キキーッ

『蘭ちゃん!!!』「え?」







ドンッ






あの時の記憶は今でも鮮明に残っている。
血塗れになって倒れる名前に、泣き出す神童。
足元に転がるボールには白と黒。そして転々と飛び散った赤。



どうして名前が倒れている?
どうして俺はここにいる?



何が起きたか一瞬理解もできず、自分に飛び散った赤を見てただ震えた。
運転手が慌てて電話をかけてくれたらしい。すぐにやって来た救急車に乗り込んだ。

もうわけがわからなくなって 頭がぐちゃぐちゃになって

ただ泣き続ける神童の隣で機械に繋がれた名前を見ていた。
後でわかったがあの時の俺は一言もし喋らず、ただただ名前を見つめていたらしい。
病院について名前が緊急手術室に運ばれてからだ。



俺が罪の意識に気付いたのは



俺がボールを蹴ったから。
俺が飛び出したりしたから。

手術中の赤いランプがついてから俺はようやく声を上げて泣いた。
神童と一緒にわんわん泣いた。
さぞ煩かったことだろう。

でも堪えることはできなかった。


(ごめん)
(俺のせいだ)
(大丈夫)
(名前ならきっと)
(大丈夫)


もう声にもならない声で叫んで、神童に慰められた。
いつもなら立場は逆なのに。
いつもなら名前が"男なら泣かない"って俺達を怒鳴り散らすのに。


今、名前はいない。
名前のおばさんに慰められつつずっとランプが消えるのを待った。
ランプが消えた瞬間、幼いながらにも一丁前に緊張感に息を呑んだ。
扉が開いて、執刀医がゆっくりと口を開く。

その事実は残酷なものだった。

手術は無事に成功したらしいが、打ち所が悪かったらしく一生ものの後遺症が体の至る所に現れるだろうと。
もう一生走り回ることはできないだろう、と。

病室のベットに移された名前に会いに行った時、名前が一番にこう言った。




『蘭ちゃんが無事でよかった』



目の前に広がった罪悪感と絶望感。
あの日から俺は一生かけて罪滅ぼしをすると決めた。

俺の勝手なエゴかもしれないし、いつか自分をこんな体にした俺を恨むかもしれない。

でもそれでいいんだ。
俺はこの罪を背負って生きていく。
大事な幼馴染……いや


愛している一人の女の為に






背中の羽根は堕とされた

(堕としたのは)
(紛れもない俺)

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