独特の臭いが鼻を刺す。
白い廊下、白い壁、白で統一されたその空間―所謂病院。
それで分かるように俺は病院に来ている。
別に自分が怪我をしたとか病気だとかではない。
ただ、ある人に会いに来てるだけ。


「あら霧野くん。今日もお見舞い?」
「はい。今大丈夫ですか?」


自負はしているがこんな目立つ見かけだし患者でもないのにしょっちゅう病院に来る俺は既に顔を覚えられてるらしい。
ちょっと待っててね、とどこかへ電話を繋げる看護婦さん。
いつものことながら申し訳ない。
きっとあいつの所へかけているのだろう。

「あ、霧野くん!大丈夫そうよ」
「ありがとうございます」
「ふふ、名前ちゃんたらこんなカッコいい子にお見舞いされるなんて羨ましいわ」

笑顔で言う看護婦さんだったが、その言葉がズシリと胸にのしかかる。





「そんなことないですよ」






これは俺の罪滅ぼしなんだから。














汚れ1つ無い、もう行き慣れてしまった廊下を歩く。
ここに通い始めた当初は毎度道に迷っては道を聞いて行った記憶もある。

(今思うと妙に恥ずかしい)




俺はあとどれだけの間この廊下を歩くのか。

俺はあとどれだけの間彼女に罪滅ぼしを続けるのだろうか。





ガラッ



『やっほー蘭ちゃん!』

「元気そうだな」
『うん。今日は調子がいいの!』


ベットから体を起こし、こちらに寄って来ようとする名前を押さえベットに戻らせる。
このやり取りも何回やったかはもう数えられない。


『でさ、そっちの方はどうなの?』
「こっち?」
『サッカー部!たっくん元気にしてる?』
「あぁ。また今度連れてくるよ」
『ほんとっ!?』


無邪気な笑顔が眩しい。
その真逆、罪悪感に襲われる俺の心。

ごめん、ごめん

呪文のように何度と唱えただろうか。
繰り返した言葉は名前から笑顔を消した。


『また皆に会いたいなぁ』


だから俺はこうして罪滅ぼしに来る。
これは俺の罪だ。




その笑顔を病院と言う箱庭に閉じ込めたこの俺の







開けてはいけないパンドラの箱

(開ければそこには罪しかない)

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