ボロッ、
効果音にするならそんな感じ。
「どーかしたのか」
『……猫にひっかかれただけ』
嘘だなと一瞬で分かったが言わなかった。
いつもよりボサボサになった髪。
トレードマークの長いリボンは邪魔になったのか腕に巻かれている。
髪の毛ぐらいなら今抱いている猫で言い訳は済んだろうが他の外傷も見られる所を見ると猫ではない。
明らかに悪意を持った何かだろう。
「……喧嘩か?」
噂ぐらいだが聞いたことはある。
と言うか授業はサボり、このみてくれで一部の人間には反感を買うのは容易に推測する事はできる。
少し間をおいて南條がコクリと頷いた。
多分南條が制服の中に着込んでいる長袖の下にはまた違う傷があるんじゃないかと思うが深くは追及しなかった。
一応世間体を気にして着ているんだろうと思うと結構そんなトコまで気にしてんだな、と新しい発見。
知れば知るほど思ってたよりも違う。
『…私はね、自分からケンカはしないって決めてるの』
「自分から?」
『手は出さないって事』
南條は包帯が巻かれている手で猫を撫でている。
相変わらず猫は気持ちよさそうだ。
『暴力はしたら負けって思ってる』
「…それで余計に自分がボコられてもか?」
『当たり前でしょ』
本当に当然の様に、言葉の通り当たり前の様に言ってのけた南條だったが、そう簡単に決められることじゃないだろう。
手を出すよりも手を出さない方がよっぽど難しい。
それでもコイツは手を出さないと決めている。多分俺にはできないことだ。
「じゃあこんな生活しなきゃいいんじゃねーの?」
授業をサボって見かけも自分から不良っぽくして。
傷だらけになってまで猫に会いに来て。
そこまでして貫き通したい理由があるのか。
南條は猫を抱いたままずっと頭を撫で続けている。
気持ち良さそうに目を細めている猫を尻目に南條はこっちを向いた。
『私は自分が生きたいように生きてるだけ』
『他人が何て言おうが関係ない』
だから自由に生きる猫は嫌いじゃないの。
そう言う南條は自由気ままに生きる猫のように思えた。
そんな人生、棘はあれど面白いものなんだろう。
「…そーかよ」
思わず南條の頭をかき乱す。
まさに猫っ毛。
ホントに猫みてぇ。
『何すんのっ』
「南條が猫っぽいからつい」
つーか猫が嫌いじゃないってそれ面倒だし好きって言えばいいのに。
指に絡みつくくせ毛を堪能しつつ、俺は南條の腕の中で眠る猫に南條を重ねた。
自由気ままな
(その傷、隠さなくていいのか?)
(これはホントにひっかかれただけだもん)
_