嫌な感じの夢を見た。
嫌な夢、ではなく嫌な感じの夢。
内容を述べよと言われたら言い表せない、妙に不安を煽られる夢だった。それだけは覚えている。

そしてそれに合わせてこの頃あの猫の元気がない。

どうしたんだろう、と膝の上で弱々しく鳴く小さな背中を撫でる。
最近、篤志がここに来るのがまちまちになってきた気がする。

杞憂で済めばいい。
ただ、不幸にも昔から私の嫌な予感はよく当たるのだ。


「よぉ」
『!篤志』


ぼーっとしてたからか背後から近寄る篤志に気付かなかった。
いつもならもっと早く気付いてるのに。
意外にも頭の中は渦巻く不安にかられているらしい。

前まではこんな不安どうとも感じなかったのに。
変なところで惚れた弱みっていうのを感じて恥ずかしくなる。
絶対、…絶対に行言ってあげないけど。


「まだ調子ワリィのか?」
『…うん。元気なさそうなまんま』

「…そーか」


隣に座り込んで猫の頭を撫でる篤志。
篤志もこうしてなんだかんだで心配してくれる。

滅多にこんなことはしないんだけど不安も重なって篤志の肩に頭を預けてみた。
篤志は何も言わない。
ただただ黙って私に肩を貸してくれる。今はそれが心地よかった。


すると校舎から放送音。
流れてきたのは聞いたことのあるようなない様な先生の声だった。



―3年生、南沢くん。今すぐ職員室に……


「…あ、ワリィ行ってくるわ」
『…!篤志っ』



立ち上がった篤志の学ランの裾を掴む。
私、なにしてるんだろう。
ただ放送で呼ばれたから行くだけなのに。

どうしてこんな不安になるんだろう。
このまま篤志を送り出してはいけないような気がして。


「どうした?」

『…帰って…来るわよね』
「……、昼休み中には帰ってくるっての」


私が言いたいのはそういうことじゃないのに。
きっとこの時篤志はわかっててああ言ったに違いない。

「にゃぁ」

私の膝の上で猫が鳴いた。
何かを悲しむかの様に、何かを惜しむように。

そう、私の嫌な予感はよく当たる。
まずその前に、あの昼休みに篤志が帰って来なかったことが前兆だったのかもしれない。




『篤志が……転校した……?』




うそつき。
帰ってくるなんてあんなちっぽけな嘘。

あの背中を思い出して私は無性に泣きたくなった。




小さな嘘

(ねぇ篤志、もう昼休み終わっちゃったよ)
(帰って来るって言ったくせに)

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