教室でずっと座って授業を聞いているのはかなり苦痛だ。
だからこそ中には寝ているもの、内職するものと暇を持て余すものが出てくる。
中学3年生、受験生だからといって欲望に負けてしまうものだって多い。
悠里のクラスだって例外ではない。
クラスの3分の1は突っ伏していたり別の教科の教科書を開いていたりしている。
南沢は真面目という仮面を被り、授業を聞いているフリをして全く別のことを考えていた。
相変わらずの左斜め前の席。
隣からではなく、久しぶりに見た後ろ姿は相変わらず小さいなぁと思いつつ言ったら引っ掻き回されることを予想して少し口角を上げた。
ふらふらと揺れる頭と同時に窓から吹いてきたリボンが風に舞う。
今中庭にいるであろうあの猫がこの場にいたならきっとあのリボンに飛びついていただろう。
そう思うようになった辺り自分は悠里に染まっているのではないかと思う。
窓を見つめて息をついている悠里は、外の中庭にでも思いを馳せているのではないのだろうか。
「じゃあ次の問題をー……南條!」
『!……ん?』
ぼーっとしていた空気が少し締まる。
自分が名指しされたことに気付くとガタリと席を立ち、黒板の方へ歩を進める。
歩く度に揺れるリボンにやっぱり猫がじゃれつきそうだという想像が捨てきれない。
今度試してみるか、と思っていると前方から教師の「正解だ」という台詞が聞こえた。
その身長ゆえに届かなかったのだろう、黒板の半分より少し上辺りに書かれた見かけによらず丸い文字。
悠里がスタスタと席に戻り、着席をしたとほぼ同時ぐらいにチャイムがなった。
丸付けしとけよーと呑気に去っていった教師に真面目ちゃんの仮面を封印し、席を立って左斜め前の席を目指す。
「随分ボーッとしてたな」
『…何よ、見てたの?』
「後ろだとどうなったって見えるんだよ」
息をついて、あまり使用していないためか人よりも真新しく見える教科書を片付ける悠里にいつものいじらしい笑顔を浮かべる。
『…そういう篤志だってボーッとしてたくせに』
「は?」
『言っとくけど、こっちからだって丸見えだからね』
「……悠里の席俺より前だろ」
『ばーか』
そう言って指を指したのはてっきり悠里が外を見ていたのだと思っていた、窓。
『自分で考えなさいよね』
よくよく見ていると透けているガラスはうっすらと鏡のようになって後ろの席ですら反射して見えていた。
ということは悠里を見ていた自分も丸見えだった訳だ。
ボーッとしてた、と知っていたということは悠里も南沢のことを見ていたということ。
そういうことはちゃんと言えばいいのに、と思いつつ南沢はニヤリと笑った。
態度1
(その代わり、気持ちは100)
(だからバカって言ったことは特別に許してやるよ)
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