中学3年生達の前に立ちはだかる大きな壁。
受験と言う名の逃れられない壁は平凡な中学生活にとっては非凡なものだろう。
南沢も例外ではなく、むしろ彼はそのことに関して貪欲とも言える。
もとからの才能でもあろうサッカー部のエースとして活躍し先生からの印象も悪くはない。

だが悠里は違った。
南沢と付き合う前からサボリ癖のあった悠里はそれを改める気はサラサラないらしく相も変わらず中庭で猫と戯れている。


「お前…大丈夫なのか?」
『なにが?』


普段はキツい目付きの悠里はどこへやら。猫を膝に乗せたまま蕩けきった顔をしていた。
隣で寝そべっていた南沢が声をかければ少し表情が固まる。

…そんなに猫が好きか。
南沢は思ったが聞いてもどうせお得意のツンデレで否定するのだろう。
危機感など感じていない様子の悠里に思わずため息を1つ。

すると無意味にため息をつかれた悠里はムッと顔をしかめる。


「お前進学大丈夫なのかよってことだよ」
『…特に考えてない』

「……」


なんとなく予想はしていたがまさか何も考えていないとは。

これは思わずため息の1つも漏れるというもの。
いくら自分のことではないとはいえ多少は心配になる。


「猫と遊んでる場合じゃなくないか」


ピタリ、と猫の背を気持ちよさそうに撫でている悠里の手が止まった。
少しは危機感を持ってくれないと困る。
それこそ悠里が楽しみにしている猫と戯れる時間もなくなるだろうし南沢としても悠里と接する時間が減るのは嫌だ。
教室に悠里がいる時なんか本当に限られた授業中のみで滅多に見ない上にほとんどの時間は机に突っ伏している。


『…じゃあこの子達はどうしろっていうの?』

「猫か?しょうがなくても放って置くしかないだろ」
『だって……』
「……ったく…」
『あ』


悠里の膝に乗っていた猫が鳴き声を上げて南沢も足元に寄って行った。
今となっては2人に完全に懐いてしまった猫は喉を鳴らしながら芝に付いている手に擦り寄っている。
南沢の膝に乗り移った猫は悠里に向かって一鳴き。


「コイツも勉強しろってさ」
『………む』


自分の元を離れていったのが寂しかったのか眉尻が下がっている。


『内申点…やっぱ稼いだほうがいいかな…』
「そりゃないよりかいいだろ」


膝を抱えだした悠里にちょっとは真面目になったかと南沢は顔を上げた。
どうやら眠気の方が勝ってしまったらしい、猫は南沢の膝の上で丸まっている。


『だって…』
「?」


『…あ、篤志といれる時間が減るから………』


珍しく名前を呼んで。
その上に顔を真っ赤にしているというオプション付きで。

そんな可愛いことを言われて反応しないで入れる彼氏がいるだろうか。

否、いないだろう。
南沢は膝の上で寝ている猫を起こさないように体を捻って悠里を抱きしめた。
声をあげようとした悠里も南沢の膝の上にいる猫を起こさないよう口を噤む。

そんな南沢の心の中は今密かに悠里と教室でいる時間も増やす計画を立てていた。




内申点

(それからキミとの内"心"点)

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