体育館裏での出来事から数日。

あの日から南條が中庭に来なくなった。
相変わらず猫はいるってのに珍しい事もあるもんだ。
(それとなく世話してやってっけど)
おかげで大分俺に懐いた猫は今日も俺の膝の上でぬくぬくと夢の中。
呑気な猫が羨ましいとすら思う。
こっちは気付いちまったこのモヤモヤを早くアイツにぶつけなきゃ気が済まねぇってのによ。
そんなこと知ったこっちゃねぇと言わんばかりに眠りこける猫。
抜け毛学ランに着くだろーが。
まぁどかすのも面倒だしどかしたらどかしたで手に抜け毛が着く負のスパイラルが起こるからどかさねーだけだけど。
猫をぞんざいに扱ったら南條がキレそうだしな。



―『何してるのよ!』



そう言ってバッと俺の元から猫を奪いにかかる南條の姿が容易に想像できてなんとなく笑えた。
フッと膝の上から重みが消えたかと思うと猫は急に鳴き声を上げながら背もたれにしてた木に昇っていく。
何だと思ったらガサガサと音がした後すぐに俺の元に戻ってきた。


にゃぁ

『……手紙?』



小さな封筒をくわえて。
表裏を見てみたけど名前なんて書いてない。
だがよく見たら薄らとシャーペンで"南沢篤志"と書かれているのが見えた。
差出人は俺じゃない。ならばこれは受取人の名前。

一体誰だ。こんなトコから手紙なんt『きゃあぁあぁぁぁ!!!』


バキ
   バキ



ドサッ


「……前にもこんなことあったよな」


ただ違うのは、俺が落下してくる南條を受け止めたこと。



『な、な、何してるのよ!』
「南條が降ってきたから受け止めた」
『じゃなくて何でその…お…お姫様抱っこな訳!?』
「じゃあ落ちたかったのか?また水色ストライプじゃなきゃいーけど」
『…!!』


あ、固まった。
(この様子じゃ今日も水色ストライプか)
予想外な形でさっき自分が考えてた台詞を言われるハメになった訳だが全然怖くもなんともない。



『あ…て、手紙!それ私のだから返して!』
「はぁ?」



顔真っ赤にして俺の腕から手紙を奪おうともがく南條に、落としかけた体を地面に下ろす。
勿論手紙は渡さないようにして。

明らかに俺宛ての手紙にそう言われても。

一瞬思ったが俺は慌てて頭を廻す。
慌てっぷりからしてこの手紙が南條のものなのは間違いないだろう。
だがこれは俺宛て。
つまり南條が俺に渡す筈だったもの、って事だ。



「お前のって言う証拠は?」
『う……』



ここで俺の意地悪心が働いた。



「じゃあ俺が手紙見といてやるから内容言ってみろよ」




そんくらい覚えてんだろ?


途端に染まる頬。
反応を見れば内容なんてもうわかったも同然だけど。
どうせなら言わせてやろうじやねーの。
俺がモヤモヤした分、お前の言葉で晴らしてもらうぜ?



『なっ…なんで私が』
「コレ、お前のなんだろ?」

『……っ』

「言わねーならお前以外の誰かからの手紙って事になるけど?」



グッと南條が押し黙る。
封筒から畳まれていて中の見えない便箋を取り出し目の前にチラつかせると、南條はゆっくりと口を開いた。
同時にカサリと手紙を開く。





"南條悠里は"

『…南條悠里、は』




"南沢篤志が"

『みっ、南沢篤志が』





"好きです"

『好き、で………す』




いつにも増して南條の顔は真っ赤で。
俺は手紙を畳み、緊張からか固く目をつぶっている南條の真っ赤な頬に唇を落とす。

慌てて開かれた瞳。

そして何かを紡ごうとするその口を自分のソレで塞いでやった。




『っん……ふ、あ』





息の仕方すらわからないのか、口の隙間から漏れる嬌声に余計に加虐心を煽られる。
その隙間を塞いで、呼吸すらも飲み込めば叩かれる胸。
流石に南條の表情が苦しそうになってきた。

スッと距離を離せば全力でその肺に酸素を吸収しにかかる南條に思わず笑った。



『に、すんの…』
「俺の事好きなんだろ?」



言えば小さく頷く頭。
それに合わせて長いリボンが揺れた。


「ならいいじゃねーか、悠里」


ニヤリと笑みを見せればパッと目を反らして俯かれる。
顎に手を添え顔を上げさせればずっと熱が下がらないのか顔は真っ赤なまま。
うろうろする目線を合わせさせれば抵抗なのか気の強い口が開いた。



『じゃあ…アンタも言いなさいよ』
「"アンタ"じゃなくてちゃんと言えよ」
『南沢』

「名前は?」
『…あつし』
「合格」


もう一回抵抗されるのも面倒だったから今度は額に口付る。
相変わらず真っ赤な悠里に俺は不敵な笑みを向けた。






『俺は好きじゃなくて愛してる、だけどな』






そよ風が駆け抜けて、足元で猫がにゃあと鳴いた。





気ままそよ風Day's


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