学校に行くと言って白竜の横槍によりいつも通りフィフスセクターへ足を運んだ咲夜の元に剣城は現れた。
なぜ来なかったのか、と別に問い詰めるつもりはなかった。ただ単にあの短時間になにがあったのか。
気になるが咲夜がまともに話すとも正直思えない。
剣城は咲夜の部屋に入り、第一声を躊躇しつつも確信を突いていく。
「……学校、結局来なかったんですね」
『すまないな。なにせ懐かしい旧友に声をかけられたもので』
「…旧友…?」
フィフスセクター内部にて。
制服からいつものスーツに着替えた咲夜が小難しい文字の列んだ書類から顔を上げる。
『キミも知っている筈さ。…"究極"に見入られてしまったあの少年を』
「!」
咲夜の物言いが暗に誰を指すのかが理解できた剣城は目を見開いた。
かつては自分もそこにいたのだから。
"究極"の存在を目指し、地獄の様な日々を過ごした事は一生頭に刻み込まれたことだろう。
「白竜…!」
『ご名答。見た所…彼は彼なりに成長をしているようだ』
「……」
『安心したまえ、剣城少年も負けてはいない』
トントンと書類を揃え、全く冷静さを欠くことなく立ち上がる咲夜。
だが剣城には疑問が1つ浮かぶ。
いや、それは既に疑問にも似た確信だ。
「咲夜さんは…あの島にいたことがあるんですよね」
『…疑問形でない理由は?』
「白竜を知っていてその成長がわかるという事実で充分です」
『よろしい。ご察しの通り、確かに私はあそこにいたよ。剣城少年とは丁度入れ違いぐらいまでな』
あれはもういつのことだったか。
自分の体に叩き込まれ、刻み込まれたサッカーというもの。
しかし根本が咲夜には合わなかった。
剣城の横をすり抜けて背中を向けたままで足を止める。
『私はあの島の第一覇者さ』
見るものを魅了するプレイスタイル、元より持ち合わせていた身体能力により覇者へと上り詰めた。
上へと上り詰めた咲夜に残ったのは虚無感だけ。
確認しなくともわかる。きっと剣城は目を見開いていることだろう。
咲夜は部屋のドアを開け廊下へと身を滑り込ませる。
髪の毛を括っていたリボンを解き、バサリと音を立てて赤い髪が重力に沿って散らばった。
『…私がこんなに自分のことを誰かに話すとは…』
惹かれているのかもな、彼に。
コツ、と靴が音を立てる。
誰もいない廊下に彼女は呟いた。
『私の名は篠原咲夜。フィフスセクター"白の騎士団"のキャプテンであり』
しっかりと前を見据え。
『第2の総帥、イシドシュウジを憎む者』
その瞳に憎悪を携えながら。
咲夜は長い髪を振り乱しとある場所へと向かうのだった。
偽り無き言葉の裏
(さて…)
(剣城兄の入院している病院は……と)
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