咲夜は至って冷静だった。
とりあえず場所を移そう、白竜に言って足を学校から足を遠ざけ向かった先は鉄塔広場。
雷門の象徴とも言える鉄塔の見える広場に似つかわしくない雰囲気を纏う二人はこの場に異端な存在に見える。
白竜に会うのはいつぶりかを思い出し、久しぶりだと改めて感じた所で咲夜が口を開いた。
『して、何の用かな白竜少年』
次に白竜が口を開けば放たれる言葉を予測するなど咲夜には容易である。
だがそれを聞いたのは咲夜の中の社交辞令の範囲内だ。
「貴方を我がチームにと」
『何度も言った筈だが?私はあくまでも…』
「えぇ、わかっています。ですが…」
予想通りの事の運びに咲夜は内心笑みを浮かべた。
そう。咲夜はフィフスセクター、そして"あのチーム"以外に属す気は全くと言ってない。
剣城少年と同じでわかりやすいな、と目の前にいる白竜に剣城の面影を重ねる。
意志の強さ、志、強さを求める気持ち。
ただし相違しているのはその理由だ。
フィフスセクターというものに属し、サッカーをすると言うことにどんな理由があるのか。それは剣城も白竜も…そして咲夜もバラバラである。
「なぜです!?咲夜さん程の…ゴッドエデンの頂点に立った貴方なら強さを手に入れたいと思うのは当然の心理の筈だ!」
ついに声を荒げ始めた白竜。
言ってしまえばまだ中学生の白竜にはまだ感情の抑制は難しいのか。
それとも咲夜の感情の抑制が恐ろしい程に完璧なだけか。
二人の纏う空気がガラリと変わる。
『…"ゴッドエデン"……その名を久々に聞いたな。牙山は相変わらずか?』
「話を逸らさないでいただきたい!」
『おっとこれは失礼』
「貴方は相変わらずですね…!」
『そう簡単に人の根本は変わらないだよ。地獄を見ても、天国を知っても……な』
完全に咲夜のペースに乗せられた、白竜は悟る。
かといってどうにかできるものでもないと知っている分対処法は上手い方だなと咲夜は白竜の成長を感じていた。
昔は事あるごとに突っ掛かっては口車に乗せられたというのに。
『私は強さを理由にココにいる訳ではないからな』
「では何の為に…!」
『それは言えない。1個人としての拒否権と言うものだ』
「…俺には理解し難いです」
『あぁ、理解して貰わなくて結構だよ。むしろしないでくれ』
強さは目標を成し遂げる為に必要なものの一つでしかない。
その過程でゴッドエデンの頂点に立ってしまった、というだけの話。
『話は終わりか?』
沈黙は肯定。
まだまだ咲夜に口で勝つのは無理だろう。
咲夜は身を翻し一歩足を踏み出す。
「…必ず、貴方を我が手中に…!」
背中に白竜の言葉を受けながらも咲夜は鉄塔広場を後にした。
―結局学校に行けなくなってしまった。
悪いな剣城少年、
咲夜は自分に嘲笑を浮かべながら皮肉にも学校より通い慣れてしまったフィフスセクターの拠点へと足を向けたのだった。
変わらぬ面影
(瞳の奥に宿る光も、なにもかも)
(あの地獄にいる時から変わらないんだな)