「姉貴。数学」
『よっしゃ500円』

「……100円」
『無理』



南沢家。
数学の宿題、課題を姉に手伝ってもらおうとワークやプリントを持って部屋を訪れた
弟。南沢篤志。
それを漫画片手に金の催促とし手を差し出すのは姉の皆のお姉さん。

財布の事情がよろしくない弟としてはできるだけ安値で済ませたいと思っているが姉
はそれを許してくれないらしい。
即答で断りを入れた皆のお姉さんは漫画から手を離さない。


「お願いします」
『…どうしよっかなー』

「秀才で運動神経抜群でスタイルも抜群な皆のお姉さんさん」

『よーしお菓子1つで許してやろう』
「タダじゃねーのかよ」
『うるさい何か文句でも?』


皆のお姉さんが音を立てて爽やかな笑顔を振りまいて椅子を回転させる。
その笑顔は無駄に清々しく、そしてどこか腹立たしい。


『で、お菓子出すの出さないの』

「……ホイ」
『よっしゃ貸してみ』


パッと弟の手にあるワーク・プリントを奪い取り椅子を回して自分の机に向かいスラ
スラと問題を解いていく。
手にもっていたチ●ルチョコは既に姉の口の中に放り込まれていた。
さようならチロ●チョコ。君の犠牲は無駄にはしない。
南沢は姉の本棚を模索し勝手に漫画を読み漁る。
(多分)寛大な心の姉なら許していくれるだろう。
そう思って皆のお姉さんが問題を解き終わるまで黙って背後で漫画を読み漁っていた。


『ホイできたー』
「ん。さんきゅ」

『ここ、全部公式も解き方も書いといた』
「流石…抜かりねぇな姉貴」
『誰の姉だと思ってんの』


別紙のルーズリーフに細々と書かれた数式。
わかりやすく解説された文字を見ると皆のお姉さんの完璧主義な性格が見て取れる。


「じゃ、また頼むわ」
『ちょーっと待った篤志』

「あ?」

『私の漫画。読書料金500円』


にこやかに差し出された手が憎たらしくて仕方ない。
は?と声を漏らした南沢に皆のお姉さんが容赦なく言葉を突き立てる。



『まさか勝手に読み漁っといて何もなしっていうのはね?』



さっきの●ロルはどうしたチロ●は。

弟の主張は確実にへし折られるであろうことは目に見えている。
無言になった南沢に皆のお姉さんの笑みが深まってくる。
南沢は知っている。この姉の笑みが何を意味しているのかを。




『さ、篤志?』



こうして弟の500円は姉の財布に吸収されていくのだった。






さよならワンコイン

(これで課題終わったんなら安いもんでしょ)
(これ漫画の読書料金じゃなかったっか…?)
(細かいことは気にしないってね)

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