聖なる夜だなんて名ばかりであって実際に聖なる夜とはなんなのかと聞かれればなんとなく答えられない。
フィーリングで伝わるものはあるが完全な説明を望む人間には確実に返答することはできないだろう。

なら完璧じゃない人間にとってクリスマスとはなんなのか。
ロマンチックな幻想を抱く乙女。
それはまさにクリスマスの根源とも言える乙女マリアの様である。

だがここにそんな言葉とはかけ離れた考えをしている不届きものの女が一人。



『クリスマス?あぁサンタと言うなの親の財布ぶん取って美味しいものをたらふく食べる日でしょ?』

「姉貴ィ…」
『ってことで篤志。チキンとシャンパンとケーキ』
「ふざけろこんにゃろー」



いつからだ姉貴がこんなんになったのは。あぁ最初からだっけか。
サンタの正体なんか俺が小2の時にバラされた記憶がある。
姉貴自身は最初から信じていなかったらしく親父をハメればすぐにわかったとかそうでなかったとか。
(なんだんだ俺の姉貴は)

つまり言いたいことは俺の家のクリスマスには夢も希望もないってことだ。

あるのは現実だけという子供にとってはなんとも恐ろしいクリスマス。
もっと早く気付けただろうに、俺の性格が若干ひねくれているのはこの姉貴のせいだと最近気付いた俺は馬鹿だろう。
そう考えるのも馬鹿馬鹿しくなってきた。


『ったく、今日に限って母さんも父さんもいないんだから』
「しょうがねーだろ。仕事だし」


こたつでごろりと横たわっていた姉貴が立ち上がる。
自主的にこたつから出るなんて珍しい。
出たとしてもいつもはかなり嫌々、しかもノロノロとしか移動しないっていうのにこの姉貴は。


『篤志もまだ飯まだなんでしょ』
「当たり前だ。姉貴がまだなんだからな」

『ふむ』

「……は?」


立った。
あ、いやク○ラが立ったとかじゃなくて。



『しょうがない。今日は特別に私が料理を振舞ってやろう』



姉貴が キッチンに 立ってる。


「俺今夢でも見てる?」
『残念夢じゃない。なんならこのフライパンで殴ってみてもいいけどどうする』
「いやそれは断る」

『で、食べるの?食べないの?』


そりゃ勿論食べるけど、俺が言いたいのはそういうことじゃなくて。
あの姉貴が。 あ の 姉貴が(大事なことだから2回言う)人の、しかも俺の為に何かを作るなんて怪しすぎる。


『別に他意はないから』


俺が怪訝そうな顔をしているのに気付いたのか姉貴が先に釘を刺した。
久々に見た姉貴の後ろ姿。
昔から見ていた背中はいつの間にか見えなくなるぐらい遠くに行ってしまった筈なのに今目の前にある姉貴の背中にどうにも懐かしさを感じてしまう。

何でも卒なくこなす姉貴にとって料理なんてお手のモン。
あっという間にテーブルにシェフ顔負けな色とりどりの料理が並べられていく。



『どうだ皆のお姉さん様特性クリスマススペシャル』
「うぉぉ……」



目に妙なフィルターがかかって料理が輝いて見える。
この荒んだ心の姉貴にこんなものが作れるなんt『はい篤志はやく席付け』「はい」


『しっかり味わっていただけよー』
「まぁ…まず姉貴が作ったもんなんか悪意さえなければ普通に美味いし」
『う〜ん一言余計だぞ。ぶん殴られたいか「いただきまーす!」



姉貴の料理はスタッフ(と言うなの俺)が美味しくいただきました。







聖夜の落とし穴

(よーし篤志。飯食ったな)
(…え?)
(じゃあケーキ。ひとっ走りヨロシク)

(最後の最後でこれかよ……)

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