『やぁやぁ諸君。今日は君達に差し入れを持ってきてあげたよ』
「…珍しいな、姉貴が差し入れなんて」
『何言ってるの篤志。今日は春ちゃんがちゃんといることを見越しての計画に決まってるじゃない』
「「「これだからこの人は」」」
スーパーの袋に詰められたスポーツドリンクのペットボトル達。
それを片手に爽やかな笑顔で現れた南沢の姉である皆のお姉さんはとても爽やかな笑顔で春菜の元へ駆けていく。
『春ちゃーん!』
「あら!皆のお姉さんちゃんじゃない!久しぶりね!」
『ずっと会いたかったよ春ちゃん。この前来た時は春ちゃんがいなかったから』
前回皆のお姉さんがここに来たときには春菜は昼食休憩中だった。
入れ違いで出会うことのできなかった皆のお姉さんは弁当を届けに来たという次は差し入れという理由にかこつけてここに現れたのだ。
全ては憧れの春菜先生に会う為。
春菜は皆のお姉さんの担任でありよき理解者でもあった。
現在の南沢の姉、とだけあってやはり皆のお姉さんの運動能力は桁外れで、春菜がサッカー部のマネージャーになったのが始まりである。
サッカーの実力もさることながら、皆のお姉さんはサポート能力も高く何でも卒なくこなしてしまう。
選手の指導として駆り出されることもあればデータ処理まで、まさにオールマイティー。
「今はサッカー部にいるの?」
『んーん。今はいろんな部活に助っ人中』
「助っ人?」
『うん。サッカー部にもバスケ部にもバレー部にも。金と引き換えで助っ人仕事。ちなみに私の入った試合の勝率100%』
スラスラと並べられた言葉は全部あっさりと言っているが結構凄い事だと遠くでそれを聞いていた一同(南沢弟を覗く)はドリンクを吹き出しかけるのを必死で我慢した。
「相変わらずっちゃ相変わらずだが…あの人どういう運動神経してんだ…!?」
「それで汗一つかかずに家に帰ってくるからな」
「はぁ!?」
『なに篤志。なんか文句でも?』
「いや…別にねーけど」
「駄目よ皆のお姉さんちゃん。皆のお姉さんちゃんはボール禁止っ!」
『…春ちゃんが言うならしょうがないか』
「「「「(いつの間にボール構えてた!?)」」」」
春奈の隣に佇む皆のお姉さんの足元にはサッカーボール。
陰口でもしようものならそのボールは容赦なく実の弟の顔面にめり込んでいたことだろう。
「それだけできるんならどこかに入部すればいいのに…」
「…皆のお姉さんさんにはそれじゃ勿体ないからじゃないんですか?」
『1年生くん残念ハズレー』
「うわぁぁ冷たっ!?」
天馬の背後から頬に当てられたのは冷えたスポーツドリンク。
差し入れと言って持ってきたそれをまだ献上してなかった皆のお姉さんはからかいがてら可愛い後輩にそれを喜んで献上することにしたのだ。
運動して温まっている体に急に冷えたペットボトルを当てられたものだから天馬は思わず皆のお姉さんから飛び退いた。
その反応に満足したのか皆のお姉さんはプッと笑っている。
『うんうん。いい反応』
「び、びっくりするじゃないですか…!」
『いやぁあまりにも後輩が可愛いもんで。あ、篤志は別ね』
「おいコラ姉貴」
『何か文句でも?』
「………アリマセン」
『よろしい。で、私が部活に入らない理由だっけ?』
「あ、はい。どうしてなんですか?」
『めんどくさいから』
「「「「「「(…ええぇぇぇぇぇ)」」」」」」」
この時ほど一同の心が揃ったことはなかっただろう。
ベンチにスーパーの袋を置いて再度春菜のもとに走っていく皆のお姉さんに、神様ってやつはなんでこの人に多彩な才能を与えてしまったんだろうと思わざるを得なかった。
フリーダム精神
(それが私!)
(たまには弟に気を使えよ)
(それは無理な相談だな)
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