部活がない日にもグランドでボールを蹴るのは日課と言うより癖、と言った方が正しい。
「雪村、今日もやってるね」
「吹雪さん!おはようございます!」
そして吹雪さんが練習を見に来てくれるのも日課。
「じゃあ今回はシュート力じゃなくてコントロールを重視でやろうか。シュートが強くても狙いが定まらなければ意味がないからね」
「はい!!」
こうしてあの吹雪さんに個人的な稽古をつけて貰えるのは幸福者だと思う。
長年培ったものを伝えて頂いている、今俺がサッカーをしていてよかったと思えることの一つだ。
ひたすら時間を忘れてサッカーをしていた俺と吹雪さんだったけど、ただでさえ寒い中ボールを抱えて家を飛び出したのは午前中の話。
いつの間にか時計の針は頂点を指していてお腹の体内時計もお昼を告げていた。
何も考えずボールだけを持って飛び出して来た俺はしまったなぁと思うけどまぁ時既に遅し。
「(せめて財布でも持ってきたら良かった…)」
しょうがないし吹雪さんに言って一旦家に帰らせて貰おう、と足元のボールを蹴り上げる。
『豹牙ー!吹雪さーん!』
「あれ、姉さん?」
「!やぁ皆のお姉さんちゃん」
『吹雪さんこんにちは!お昼ごはーん!持ってきたよ〜!』
蹴り上げたボールを手中に収めた時、俺の名前を呼ぶ聞き覚えのある声に姉さんの姿を見つけた。
その手には大きなバスケット。
中には姉さんの言う通り母さんにでも言われたのか僕の昼食が入っているのだろう。
吹雪さんにも顔が通っている姉さんはこっちに笑顔で駆けて来る。
『今日は私の特製サンドイッチ!』
「あれ、今日は姉さんが作ったんだ?」
『失敬ね豹牙ってば。吹雪さんもどうぞ』
「いいのかい?」
『はい。吹雪さんもいると思っていっぱい作ってきたんで!』
バスケットを僕と吹雪さんに差し出す姉さん。
差し出されたバスケットからはほんのりといい香りが漂っている。
『調子はどうなの?』
「まぁまぁだよ」
「大分コントロールに意識が付いていってきてるよ。次の試合、楽しみにしてて」
『ホントですかっ!?じゃあ豹牙、次の試合ちゃーんと見に行くからね!』
レジャーシートを広げて雪の降り積もる地面に座り込む。
サッカーの会話をしながら食べる昼食である姉さん特製サンドイッチ。
吹雪さんと会話をする姉さんは楽しそうだ。
そして姉さんと会話をする吹雪さんも楽しそうに見える。
「それにしても、このサンドイッチ美味しいね」
『そうですか?ありがとうございます!』
「たまたまですよ。いつも姉さんキッチン凄いことしてるんですから」
『もー豹牙!そんないっつもはしてないでしょ!』
「あはは、皆のお姉さんちゃんも雪村も楽しそうだね」
一口サイズのサンドイッチを頬張りながら吹雪さんが笑う。
なんとなく。
中学生のちっぽけな勘で。
姉さんと吹雪さんは互いに好き合っている気がする。
そんな二人の間に挟まれた俺。
しょうがないから、次の試合でシュートでも決めて二人の距離を縮めてあげようかな、なんてお節介な俺は考えるのだった。
師と姉と俺
(姉さんも練習見ていくの?)
(うん!)
(どうせなら、皆のお姉さんちゃんもやらない?)
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雪村姉は高三ぐらいなイメージ。
後々吹雪と恋仲になればいいなぁ…と密かに考えてます。
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