校舎から階段を駆け下り、玄関で靴を履き変えグラウンドへと飛び出す。
我ながら運動神経はないな、と運動神経が自慢の弟を思い出しながら目的地へ一直線。

踏みしめる地面が茶色い土から緑色の芝へと変わればそれは目的地の合図。


『拓人!』


整わない息で張り上げた声は声を向けた人物に届いたらしくグランドにあったの複数の視線が一斉に皆のお姉さんの方へと向かった。
自分に纏わり付くいろいろな肩書きのせいで視線という重荷を背負うことには慣れてしまっている皆のお姉さんにはその程度の視線は蚊に刺された様なもの。
奥することなく胸を張っている姿は凛としており、きっと


「姉さん!?」


返ってきた返事は自分を示す代名詞で。
同じブラウン色の瞳が見開かれたのが遠目でもわかる。
でも皆のお姉さんは少しばかりの怒りを含んだ視線を弟である拓人に向けた。


『もう、拓人ったら……今週に試合があるなら、なんで私を呼ばないんです?』


走ってきて乾燥した喉に言葉が詰まる。
とぎれとぎれの言葉は静かなものだったが拓人にはわかる。彼女は今凄くご立腹であると。


「っ、すいません……姉さんには心配掛けたくなくて」
『心配ってなんです。私がその程度のことを気にするとでも?』


息を切らしていながらもその気迫はしっかりと拓人に伝わるのだ。


『…フィフスセクターからの支持は?』

「2対1の…負けです」
『円堂監督は?』

「……勝ちに行く、と」

『…そうですか』


大きな深呼吸をしてスッと息を整える。
何を言われるだろう。拓人は皆のお姉さんから顔を伏せた。

勝ちたいものは勝ちたい。
だがまだ反抗することに対して生まれる恐怖は拭いきれない。
拓人だけでなく全員がきっとそう思っている。

いつの間にかグラウンドの視線は全て2人に集まっていた。



『なら勝ちに行きなさい』
「え?」



拓人だけでなく、傍にいた霧野や三国の目までもが見開かれる。




『勝ちたいなら勝ちに行けばいいんです。何を迷う必要があるんですか』



いつもは穏やかな雰囲気を纏う皆のお姉さん。
だがしかし、本気の表情の皆のお姉さんは円堂とは似て非なる有無を言わせないなにかがある。


『勝ちたい?』
「……はい」
『なら考えることは1つ。わかりますね?』


間を置いて返事をすれば皆のお姉さんはニコリと笑う。
一気に緩まった空気にフッと息をつく。

足元に転がっていたボールを拾い上げ、それを拓人の胸に押し付けた。





『だって私の弟でしょう?』





気持ち>勝利

(貴方の気持ちを一番に)
(あそれが勝利なら私は何も言いません)

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