この重たいドアの先にはとある人物が2人いるだろう。
それを予測しながら剣城京介はスライド式のドアをゆっくりと開いた。
予想通り、ベットに座る人物が1人とその横の小さな椅子に腰掛けている人物が1人。
「兄さん、姉さん」
「!京介か」
『あら京介。今日は早いのね』
剣城優一。そして剣城皆のお姉さん。
自分の兄と姉に顔を合せ、京介は皆のお姉さんが慣れた手つきで用意した椅子に腰掛ける。
剣城3兄弟。
一番上の皆のお姉さん、続いて優一に末っ子の京介。
優一のケガの為に3人はこうして病院に揃うことが日常茶飯事だった。
サッカー部に所属している京介が一番遅くなるのは必然で。
部活動に無所属な皆のお姉さんが先に優一の元にやってきて後から京介がやってくるというのがお決まりのパターン。
優一の為に剥いていた林檎を1つ末っ子に薦めた長女は時計を見てあ、と声を上げる。
『優一、そろそろリハビリじゃない?』
「…ホントだ。京介、手伝ってくれ」
「わかった」
『はい車椅子』
定期的なリハビリの時刻にパッと脇に座っていた2人は立ち上がり皆のお姉さんは車椅子
を用意し京介は優一を車椅子に移動させる手助けをする。
この見事なコンビネーションに手伝いに来たナースが何度吃驚したことだろう。
あっという間に優一を車椅子に移動させ、ナースコールを押した。
程なくしやって来るナースも既に車椅子で準備万全な優一を当たり前の様にリハビリ室へ押して行く。
その後ろ姿を手を振りながら見送るのは何度経験してもなかなか胸が苦しくなるもの。
『暗いのね京介。部活?それとも優一?』
後ろ姿が完全に見えなくなった後で。
振っていた手を下ろし、無人になったベットにギシリと腰掛けた皆のお姉さんが京介に問うた。
長年共にいただけあってそれとなくバレている様子だ。
「……どっちも、かな」
『…そう』
曖昧な言葉で言葉を濁した京介は皆のお姉さんの座るベットを通り過ぎ窓の外を見やる。
すると何も聞いて欲しくない様子を悟った皆のお姉さんはこれまた曖昧な言葉で返して何も言わなくなった。
誰しも触れられたくないテリトリーというものは存在する。
それは姉弟の中にも健在で皆のお姉さんはそれを無理に荒らすようなことは好まない。
言うことを言わなくても通じる何かがあるから。
部活のことは少し情報が少ないが、皆のお姉さんは優一のケガの理由も知っているしそれは優一のせいでも勿論京介のせいでもないと思っている。
ならば姉として、皆のお姉さんができることは一つ。
ベットから立ち上がり、静かに京介の隣に足を並べた。
京介が何かと皆のお姉さんの方へ振り向く前に頭を掴み自分の肩に押し付ける。
「……姉さん?」
『いーから。黙ってなさい』
言えば大人しく黙り込み、静かに体を預ける弟に皆のお姉さんは口端を上げる。
『何かあったら言えばいい』
『私はアンタのお姉ちゃんなんだからね』
言い聞かせる様に囁けば、京介は小さな声で返事をする。
夕日が覗く病室で肩を並べている姉弟の姿は病院内で多く目撃されたとかそうでないとか。
夕日の見える病室での一時
(京介も姉さんも…俺を差し置いて狡いんだからなぁ)
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