『蘭〜!今朝ぶり!会いたかった!』

「姉貴…だからその呼び方やめろって」
『何を言うの蘭ったら!蘭は蘭でしょ!』


熱い抱擁を一方的に交わす姉弟。
仲睦まじいと言えばそうなのだが一方的に拘束を喰らっている蘭丸としては大層いただけない。
朝同じ家から登校して同じ家に帰る。
結局共にいる時間の方が長いのだが姉である皆のお姉さんとしては学年が違うということで授業の合間だけは離れなければいけないということが嫌で嫌でたまらないのだ。

若干のブラコンが入っているがそんなこと本人は全く気にしていないらしい。
胸を張って弟が好きだと言い張る皆のお姉さんはこうして帰宅前に一度サッカー部にやって来ては熱い抱擁を交わしているのだ。


『だって今日はお母さん遅いから料理当番で早く帰らなきゃだし…蘭の充電!』
「…はぁ」


腕の力を緩める気のない姉に蘭丸は息をついた。
霧野家の父と母は共働きな為こうして時に皆のお姉さんが家事を担当している。
蘭丸も手伝う、と申し出たこともあったがそれは断固として皆のお姉さんが拒否をした。


『だって蘭には思いっきりサッカーやって欲しいから』


そう言って全部家事を受け入れてくれた皆のお姉さんに蘭丸は感謝している。
おかげでこうして思いっきりサッカーに勤しむことができているし、そのことに対する感謝はしていた。
だからこういった行為を受け入れることでその感謝を示しているのだ。

中学1年生の頃はサッカー部のマネージャーをしていた皆のお姉さんだったが蘭丸が中学に入学してからはそれすらもやめてしまった。

始めは部活をしながら家に帰宅する日々が続いたのだが、そこまで簡単なことではない。
部活と家事の両立は何事よりも難しい事だった。
笑いながら"しょうがない"と言って退部をする皆のお姉さんに、蘭丸は申し訳ない気持ちでいっぱいになったが今ではもう過去のこと。
自分のために部活を切り落とした皆のお姉さんに、サッカーで結果を出して喜ばせてやりたいという気持ちの方が勝っている。


ユニフォームに着替えた部員達は一方的抱擁をかます皆のお姉さん達をなんとなく和んだ目で見やっていた。
今となるとこの光景もサッカー部の一部である。


『じゃあ拓人くん、蘭をよろしくね!』
「はい」

『くれぐれも怪我には気を付けてね!蘭、寄り道はしないで帰ってきなさい!』
「もうそこまでガキじゃないって!」

『じゃあね〜!』


心底名残惜しそうに蘭丸から体を離し、皆のお姉さんは部室から背を向けた。
ブンブンと笑顔で手を振って去っていく皆のお姉さんに蘭丸は渋々ながら手を振ってそれを見送る。



「…霧野先輩のお姉さんて随分ノンストイックよね…」
「ノンストイックって?」
「欲を抑えない人のこと」

「「あぁなるほど!」」


「否定できない俺が辛い…」
「いいじゃないか皆のお姉さんさんらしくて」
「まぁ……」


姉さんらしいか、と少しシワの寄ったユニフォームを伸ばしながら蘭丸は姉の出ていった出口を見つめた。






愛し愛され仲良し姉弟

(皆のお姉さんさん…あの様子だと帰ってまたハグだろうな)
(…だろうなぁ……。ま、もう慣れたけど)

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