逃げられない。

それが虎徹の第6感が感じた事の1つだった。
キラキラとしたオーラを放つ相棒のバーナビー。
そこまではまだいい。虎徹にとっては日常茶飯事である。
だがそれ以上に彼が感じた事。


「シャーリーさん!視線こっちにお願いしまーす!」
『はいっ』


隣に立っているバーナビーの妹、シャーリーの事だ。

今回の雑誌の題材はブルックス兄妹と兄の相棒ワイルドタイガーのトリオだった。
すると必然的、立ち位置は2人を引き立てる為虎徹を間に挟んでのブルックス兄妹のサンドイッチ。
ついでに左隣に立つバーナビー兄からは虎徹にしかわからないような黒いオーラを放っている。


「(手を出したら貴方の寿命が縮まると思ってくださいね)」


そう言わんばかりの笑顔である。


「(二人揃って…こんな綺麗な顔してるってのに…)」


中身はこうも違うのか、アイパッチに隠れた瞳の奥で左右に立つ整った顔を見比べてみれば生まれる謎。
シャーリーは純粋に、だが確実にモデルとしてのスタンスを確実に発揮している。

仕事人間というと印象が悪いがあえて言葉を当てはめるのであればそう形容するだろう。

モデルの顔、とでも言おう笑顔ではあるが気の抜けた笑顔ではない。
バーナビーの方もカメラ前と言うシチュエーションは慣れているらしく気さくにポーズを決めている。


言い方はあれだが同じ顔が2つ並んでいるこの状況で虎徹は混乱を招かざるを得ない状況になるのだ。






休憩を言い渡され、一気に緊張の糸が溶けた虎徹が傍にあった机にドカッと腰掛ける。


「今日は珍しく表情硬いですよオジサン」
「っかー!なんだお前ら!揃いも揃って綺麗な顔しやがって!」
『なんだかすいません?』

「いや…シャーリーちゃんはまだいいんだけどよ…」


上品に向かいに腰掛けた2人。
並ぶとやはり似ている。違うところと言えばメガネの有無と髪の長さぐらいか。


「シャーリーが綺麗なのは当たり前ですよ。僕の妹ですから」
「あーはいはい」
『褒めても何も出ませんよー』


2人の言葉の意図に気付かず、シャーリーは穏やかに笑う。


「…どうしてバニーちゃんはこう素直に育たなかったのかねぇ」


テレビ前でしか笑顔を見せない兄と屈託もなく笑う妹になぜこんなに差が出たのかがわからない。
その言葉にピクリと反応したバーナビーは普段ではありえない程の笑顔を浮かべ"少し待っていてくださいね"とシャーリーに言いつけて虎徹をスタジオの廊下に連行した。

いってらっしゃいと手を振るシャーリーの笑顔のなんと眩しかったことか。









人が交錯する廊下で佇むヒーロー2人。
無言で連行しつつ突然振り返ったバーナビーに先程の笑顔の面影はなくやはり"虎徹用"の表情で告げる。


「言っておきますけどねオジサン」


メガネのブリッジを押し上げればメガネがキラリと反射する。


「シャーリーは…あの事件のことを知らないんですよ」
「!あの事件って……まさか」

「えぇ。シャーリーは20歳。僕は24歳。あの事件が起きたのは僕が4歳の時……つまりシャーリーは0歳。生まれた直後だったんです」
「……」
「僕と違ってシャーリーは事故で両親が亡くなったと言ってあります。くれぐれも口は滑らせないでくださいね」


笑顔の違いにそんな過去があったとは。

両親の殺されたクリスマス。
シャーリーはまだ病院にいた時のことだった。
勿論事件のことも知るはずはなく理解を求めることも不可能だ。

兄として、唯一残された家族として、シャーリーにできること。
それが偽ることだけだったなんて悲し過ぎる。
そうなることがわかっててバーナビーは偽ることを選んだ。

シャーリーの笑顔は真実を知らないが故のものだとしても。

バーナビーは笑顔を守ることを、選んだのだ。




「……バニーちゃん…お前案外いい"お兄様"だな」

「僕はバーナビーです。いくらオジサンでもシャーリーに手を出したらただじゃすましませんからね」




やはり心の奥底は暖かいバーナビーに普段の笑顔の冷たさなぞ忘れ、虎徹はバーナビーのクセのある髪をくしゃりと撫でたのだった。








偽ることで守るもの

(シャーリーの兄貴、いい兄貴だよ)
(そうでしょう?自慢のお兄様です)

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