多忙な兄の命を受け、兄が部屋に忘れたデータの入ったUSBを届けに来たシャーリー。
アポロンメディアに届ければいいのかそうでないのかを聞くのを忘れてしまった挙句ケータイも誤って家に置き去りにしてきてしまった。

バーナビーとの連絡手段がない今、確実に兄に直接届けるにはと考えた結果とりあえずトレーニングルームに行くことに。
ヒーローが集まるらしいあそこなら誰かしらバーナビーの居場所を知っている人物がいるかもしれない、とやってきたトレーニングルーム。
一応最低限の変装はしてきたものの流石に変装したままでバーナビーに会うことは難しいだろう。
受付では最悪顔を晒すことになるのを予定に入れて入口のドアをくぐる。


『(…変装してるのに視線が痛い気が…変装バレてるのかな…)』



変装をしていても滲み出てしまう輝かしいオーラに本人自身は気づいていないらしい。


『あの…』
「はっ、はい!なんでしょうか?」
『すいません、バーナビー・ブルックスJr.の身内の者なんですが…』
「!もしかして…シャーリーさんですか!?」
『はい。すいません……声は控えめで…』
「あ!すいません…」


サングラスを外し、目元を受付嬢に晒せばその美しさからか頬を赤く染める。
受付嬢は元よりシャーリーの存在を知っていたようだ。

覗くエメラルドグリーンの瞳に射抜かれ、緊張の糸を張りつつ受付の手続きを済ませていった。


「あ、あの……」
『はい?』

「サ、サインお願いしても……?」
『サインですか?私で良ければ喜んで』


ニコリとバーナビーとは違い表裏は全くない笑顔に受付嬢は軽く目眩を覚えたとかそうでないとか。











『さて…』


トレーニングルームまでの道を教えて貰い目の前の扉を開ければ兄はいる(だろう)がなかなかその一歩が踏み出せない。
もしいなかったらどうしよう。そんな不安が頭を過ぎる。
流石にいくらバーナビーと同じヒーローと言えどヒーロースーツを纏わない素のヒーローたちにどう接すればいいのか。
そっち道を選んだのは自分だがいざ目の前に壁が立ちはだかると足が止まってしまう。


『どうしようかな…』
「どうかしたの?」
『え?』


凛とした、少し高めの声に振り向けば黄色いトラックスーツ姿の少女がタオル片手にシャーリーの背後に立っていた。
顔を見合わせた瞬間少女はシャーリーを指差して目を見開いた。


「えぇ!?バーナビー!?」
『あ、違います。妹です』
「妹!?へぇ〜どうりで綺麗な訳だね…」

『ありがとうございます。そういう貴方はドラゴンキット?』
「うん!そう正解!」


性格、体型、口調からして大体の予想はつく。
目の前に立っているであろう少女に答えを突きつけてみれば彼女は歳相応な笑を見せて笑った。

「僕、ホァン・パオリン。よろしくね!」
『シャーリー・ブルックスです。兄共々よろしくお願いします』

自分より遥かに背の低いホァンと握手を交わしそのまま手を引かれてトレーニングルームへ入室。
こうしてホァンと共にトレーニングルームに入室したはいいがバーナビーがその場にいるのかを聞くのをうっかり忘れてしまった。
まぁいいかと気楽な気持ち足を踏み入れればホァンが元気に声を張り上げる。


「おーい皆ー!バーナビーの妹だってー!」

『ちょ「バーナビーの妹!?」


ホァンの声に一番に反応したのは入口付近のベンチで休憩していたカリーナだった。
物凄い勢いで2人に駆け寄って目を輝かせながらシャーリーの手を取る。
その瞳はある種恋する乙女のようだ。


「ホントに!?本物のシャーリー!?」
『そうですけど、私のこと…?』
「ずっと前からファンです!あ、あの、サイン貰ってもいいですか!?」

『勿論いいですよ。貴方は……ブルーローズですか?』
「はい!」

「び、びっくりしたー…。そんな興奮したブルーローズ初めて見たよ」
「アンタシャーリーを知らないの!?バーナビーの妹で今全メディアが注目してる有名なモデルなのよ!?」
「へー…でも何かバーナビーの妹なら納得しちゃうかも」
「へーってアンタ…!」
『まぁまぁ』


そんな声に辺りも気付きてんやわんやと人が集まり出す。
いつの間にかシャーリーの周りは人で囲まれていた。
ヒーロースーツを脱いだ彼ら彼女らを見るのは少し新鮮な気持ちである。

『そういえばお兄様は?』
「ハンサム?ハンサムならタイガーとアポロンの方に行ったわよ?」
『あ〜…そうですか…』

残念だったのはその中にお目当ての兄はいなかったということ。
見事にアテは外れてしまったというわけだ。
(と言うかお兄様……ハンサムって…)


『じゃあちょっとアポロンに行ってみます』
「えー!」

「今きたばかりなのに行ってしまうのかい?」
「バーナビーが来るまで僕らとまったりしてようよ!」
「と言うか他の人だって自己紹介とかまだだし!」
「ハンサム達ならその内こっちに顔出すわよ。私からも連絡しといてアゲルわ」


その場にいた全員からのそんな押しもあり、半ば強制的に交流会が始まった。





「僕はもういいよね?」

「じゃあ私から!カリーナ・ライル。シャーリーの大ファン!」
『ありがとうございます!さっきも言いましたけどブルーローズですよね?』
「あぁ…シャーリーに私を知って貰えてただなんて…!」
『"あなたの悪事を完全ホールド!"って?』
「…同じ動作でもシャーリーがやると違うわ…!」

「私はキース・グッドマン!よろしく、そしてよろしく!」
『あ、スカイハイさん!』
「よくわかったね!」
『わかりますよ。見るからにKOHのオーラが出てますもん』
「…口調よね」
「口調だよね」

「私はネイサン・シーモア。気軽にネイサンって呼んでね」
『ファイアーエンブレム…さん?』
「そうよんv」
『ですよね。なんだろう…声の印象が全然違う気がします…』
「そりゃあ…」
『?』
「(戦いだけおっさん全開とは言えないよなぁ…)」

「えっと…イワン・カレリンです」
『ん?ん〜……』
「へ(か、顔近っ…)」
『あ!折紙先輩!』
「…先輩?」
『あ、すいません!ついお兄様の癖で…』
「いや、それはいいんですけれど」
『…折紙さん、素顔もカッコいいんですね』
「!!!!」
「(ハンサムと違ってこの子は天然なのね…)」

「アントニオ・ロペスだ」
『最後はロックバイソンさん!』
「まぁ消去法でそうなるよね」
「それを言うなよ」
『でもヒーロースーツ着てなくても十分たくましそうです』
「…シャーリーって本当にバーナビーの妹か疑いたくなるほといい人だよね…」





「シャーリー!」
『お兄様!あ、タイガーさんも』


トレーニングルームがもしも自動に開閉するドアでなければ確実にけたたましい音を立ててやって来ていたであろう。
バーナビが物凄い血相で駆け込んできて真っ直ぐにシャーリーの元へやってくる。
その後ろにはそれに付き合わされたのであろう、虎徹がため息1つ。


「あらハンサム、早かったわね」

「あんなメール貰ったら全力で来ますよ…!」
『あんなメール?』「シャーリーは気にしないでください」


一体どんなメールを受けてバーナビーが帰ってきたのか。
そのメールの内容はバーナビーと虎徹、そしてネイサンしか知らない。


「それにしても…皆さんと随分仲良くなったようで」
『はい。皆さんとてもいい人だったので』

「……この際だからみなさんに言っておきますけれど」


部屋の雰囲気から何があったかを悟ったバーナビーはやれやれとメガネのブリッジを押し上げる。




「シャーリーに手を出したら命はないと思ってくださいね」




言う直前にシャーリーの両耳をしっかり塞いでいるあたり、やはり彼はシャーリーとは違い計算された策士だと思わざるを得なかった。




策士天然シスターコンプレックス

(と言うか…タイガーシャーリーのこと知ってたのね。意外)
(あ〜この前撮影一緒になってよ。そん時に)
(タイガーが……シャーリーと撮影……!?)

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