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恋人である名前のグランドを元気に駆け回る姿を見るのは好きだ。
一生懸命なのが伝わってくるし、コイツはサッカーが本当に好きなんだなって感じる。
そんな名前が好きなサッカーをしているんだ、と思うとなんだか俺も改めてサッカーを好きになれる。
でもずっと名前を目で追い掛けるのは良いことばかりではない。
『拓人先輩っお仕事終わりました!』
「あぁ、ありがとう名前。次はあっちを頼んでいいか?」
『はいっ!』
わかってる。仕事上神童との関わりが多いことは。
でも楽しそうに笑う名前を見るとどうしようもない思いが胸に沸き上がってムカムカする。
それを足に込めてボールを蹴ったら思いっきりゴールポストに当たってボールが跳ね返ってきた。畜生。
名前はまたグランドを駆け回っている。
その背中を今すぐ抱きしめたい。
でも表立って顔に出すことは流石にしない。
子供じみたことはしない大人のヨユー、ってやつ。
「名前!ちょっといいか?」
『あ、はい!蘭丸先輩!』
…大人の………
「昨日の練習メニューを書いたバインダーがないんだが…どこにあるか知らないか?」
『あれなら確か部室にありましたよ!取って来ましょうか?』
「悪い、頼んでいいか?」
『わかりました!』
(プツン、何かが切れたような音がした)
部室に駆け出す名前。
霧野に言われたバインダーを探しに行くんだろう。
俺の足は思わず部室に向いていた。
どこ行くんだと言う神童に部室に忘れ物なんて見え透いた嘘をついて。
「名前!」
『典人先輩!先輩も忘れ物ですか?』
部室のドアが開けば、バインダーを探している名前があった。
辺りを物色したのか少しものが散らかっている。
どうやらまだバインダーはまだ見つかっていないようだ。
「忘れ物…というか…」
『?』
名前を目の前にして言葉が詰まってしまう。
神童とか霧野に嫉妬してお前を追ってきたなんてまさか言える筈もない。
鈍感な名前は俺のそんな気持ちに気付くことはないだろう。
なんか1人悶々としているのが逆に恥ずかしくなってきた。
『もしかしてどこかケガでもしましたか!?』
「あ、いや……そうじゃねぇんだけど…まぁある意味病気だな」
『えっ!?あ、れ?』
俺の言葉に狼狽えた名前をギュッと抱きしめる。
どうせ病気というのをそのままの意味で受け止めたんだろうけどかなりの狼狽え様。
伝わってくる体温に不安が胸がフッと軽くなる。
「恋の病、な」
臭いセリフだったか、と思ったが言ってしまえば後の祭り。
あえて神童と霧野のことは言わなかった。
これから先名前は神童達だけでなく何度も他の奴らと親しくするだろうから。
俺はこうしてみんなが知らないところで名前を充電させてもらうことにする。
天然彼女に恋をして
(心配事は多くとも)
(それを打ち消してくれる恋の病)
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