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有名な雷門のサッカー部部員とはいえ学内ではその肩書きは意味を持たない。
授業は皆均等に訪れるものでありそれは言うなれば学生の性であり本業である。

名前や天馬でもそれは例外ではなく。
現在は授業中。
疲れきった彼らにとって先生の語り声はただの子守唄にしかならないものだ。

清々しいほどの寝息を立てて机に突っ伏す2人の姿が並ぶ。

信助と葵は真面目に授業を受けているのだが正直2人のことが心配で仕方がない。
テストで赤点をとれば補習で部活には行けなくなるし何より彼らの進路が心配になる。
ついでに問題に答えていっている順番を考えてみれば席順的に次は天馬と名前が当てられる番。


「名前!天馬!当てられるわよ!」


小声で葵が呼んでみてもぴくりとも動かない2人に思わずため息をつく。
神経が図太いのかただ単に馬鹿なのか。

信助も苦笑いを浮かべ黒板に淡々と書かれていく問題に目を向けた。
よりにもよって応用問題。そして問題数は丁度2問。


「じゃあ次!松風と苗字!」

『…ふぁい?』
「……へぇ?」


先生の大声に起きざるをえなかったのか間抜けな声を出して2人がムクリと起き上がる。
怒らないのはあえてこの寝ていた2人に問題を解かせるその行動の愚かさを思い知らせる為だろう。


「うげ…当たっちゃったよ…」
『……チッ……………』

「(名前…寝起き悪っ!)」」


いつもの爽やかな名前の表情に陽の気が全くない。
禍々しい視線を先生に向けながら焦り気味の天馬の後に名前が席を立つ。
寝起きで不機嫌全開な名前の空気を感じ取ったのか同じく寝起きの天馬は黒板の前で名前と若干の距離を置いた。

黒板に書かれた問題に天馬が頭をフル回転させるものの授業を全く聞いていなかった天馬がそれに答えられるはずも無く。
チョークを持って棒立ちになった天馬。


―同じく寝ていた名前ならきっと同じ状態だろう。
―2人で分からなければ先生も勘弁してくれる筈。


そう思ってチラリ、と隣を盗み見た。






「よし、苗字は戻っていいぞ」

「ええぇええぇぇ!?」

「なんだ松風。お前は解けるまで前だぞ」
「え、名前、えぇぇえぇ!?」



ズラリと黒板に羅列する文字は確実に問いの答えを導いていた。
まだ頭がスッキリしていないのか無言でどこか覚束無い足取りのまま席に戻る名前。
名前の行動で天馬は完全に目の覚めたようだ。

もう一度寝ようと机に突っ伏そうとする名前を葵がつつく。
ん?と名前が眠たそうな顔を上げ葵と信助を見やる。
勿論聞きたいことは現に黒板前で狼狽えている天馬と同じことだろう。
天馬に問題の解き方をキリキリと教えている先生がこちらを見ていないことを確認して葵が小声で話し出す。


「…名前、授業聞いてなかったわよね?」
『うん聞いてないよ』
「じゃ、じゃあなんであれ解けたの?僕でもまだ解けてないのに…」


実際応用問題と言ってもこれは半ば居眠りをしていた名前と天馬に課せられた罰のようなものでテストなどに出るかというかと問われれば否というような難易度の飛び抜けて高い問題だった。
いとも簡単にそれを解いてしまった名前。
疑問をぶつけた信助と葵に返ってきたのは衝撃の言葉だった。





『ノリ』

「「え」」




そう言って名前は再び眠りに落ちる。
馬鹿と天才って紙一重だよなぁなんて思った時に2人が聞いたのは泣きそうな天馬の悲痛な叫びだった。







寝起きの天才肌


(だから僕は寝る授業は決めてるんだよね)
(…どういうこと?)
(先生が生徒に問題を解かせない先生の授業と授業は聞かなくてもわかる授業は寝る)
(妙に計画的なのね……)
(と言うか問題わかるなら教えて欲しかったよ…)
(僕理系だから文系はダメだけどね)

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