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真面目にサッカーに取り組めば水鳥に背中をシバかれ。
少し気を抜けば茜にカメラのシャッターを押され。
本気のプレーでケガをすれば葵に治療される。
「名前って…やたら女子にモテるよな」
『へ?』
「確かに…」
「……前よりも練習を見に来る女子の量が増えた気がします」
『え、速水先輩まで何言ってるんです』
休憩中ギャラリーの女子を眺めて浜野が呟けばそれに倉間と速水が乗っかった。
今現在、マネージャーたちは部室に戻っているためいない。
すると話が耳に入ったのかスッと名前の背後に人影。
「名前ってばクラスでもモテてるんですよ」
「この前も女子からクッキーもらってましたし」
『天馬!信介!』
「へぇやっぱ名前モテるんだな」
『うわぁ水鳥さん!さっき葵ちゃん達と行ってませんでした!?』
名前の両肩に手を置き興味深そうに語るのは水鳥だった。
「アタシマネージャーじゃねーし」
名前の疑問はあっさりと解決した。
マネージャーでない水鳥はずっとベンチにいたのだが名前はそれに気付いていなかったようだ。
思わずあげた名前になんだなんだと人が集まる。
いつの間にかレギュラー陣船員が集まってしまった。
「なぁ神童。最近ギャラリー増えてるよな」
「ん?あぁ……確かに増えてきてるな」
『…神童先輩と霧野先輩のせいじゃないですか?』
「神童と霧野はもとからだよ」
「倉間達だってそうだろ」
「それなら南沢だっているド」
「俺?」
「確かに南沢先輩もありそうですよねぇ…」
ワイワイとギャラリーについて語りだす。
顔の整った人物の多いサッカー部には元よりギャラリーが付きものだった。
『…女子の気持ちも難しいね……』
自分も女子なんだけど、と漏らしかけたところを慌てて口を塞ぐ。
確かにこのサッカー部は顔の整ったものが多い。
その中にヒッソリと混じっている女子、名前。
自分の感覚が麻痺でもしたのかとも思うが考えてみてもやはり女心というものはわからない。
『水鳥さんは先輩たちのことかっこいいとか付き合いたいとか思います?』
「アタシ?そうだなー……どっちかっつと見てて面白いって感じだし、そう思ったことはないな」
うーん。と頭を悩ませる。
名前はどちらかというと水鳥の様なそういう思考の方が合っている気がする。
が、茜が神童の事を思うようなそんな思考は理解しがたいものがある。
「名前なんかこんなこといっぱいあったんじゃないのか?」
「女子の扱いにもなんか慣れてるし…」
『扱いって…一般常識の範囲内ですよ』
男装をしているとはいえ名前でも最低限の礼儀ぐらいはわきまえている。
女子とつるむよりボールを追う事の方が多かった気もする今までを振り返り名前はちょっと複雑な気にもなった。
「…もしかしてお前、コッチ系か?」
『は!?』
「み、南沢!」
クイッと名前の顎を掴み軽く持ち上げる南沢。
三国がすぐさま自慢の腕力で引き離したものの如何せん彼の行動は刺激が強い。
勿論本気ではないことぐらいわかっているのだが目と鼻の先にあった南沢の顔に若干の羞恥が湧いた。
「名前を変な世界に引き込むな!」
「わかってるって。俺だって嫌だっつーの」
『…南沢さんこそ人に対する扱い慣れてるような気が…』
「だよねぇ…」
結局この討論は茜や葵が帰ってくるまで続けられた。
2人が帰ってきたときベンチにいた全員が苦笑いで、思わず頭上に疑問符を浮かべたのはのは言うまでもない。
理解しがたい乙女心
(僕も女…なんだよね?)
(なんか心配になって来るよ……)
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