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人で賑わう街中で私たちは手を繋いで歩いていた。
辺りにポツポツと見えるカップル達に紛れ絡められた腕に少し優越感を覚える。

「何にやけてんの」
『べーつに!』

そんな状態だっていうのになんのも感じないのかなぁこの素敵前髪さんは。
ちょっとキツめに手を握って引っ張ってみる。
動じる様子を見せない篤志にちょっとムッとしたけど大人しく手をつながれてる様子だから許してやる事にしようじゃないか。


『あ!あのお店可愛い!寄っていい?』
「はいはい」
『やった!』


視界に飛び込んだちょっと可愛い所謂女子学生の行くようなお店。
ピンクやオレンジの暖色で飾られた少し目にはキツイ内装ではあったがカップルと言う世間体がある為篤志はあまり気にしてなさそうだった。
(と言うかなんだかこんな店に来るの慣れてそうだ)
一方的に私が引っ張り篤志が付いてくる、という感じだったけどそれもデートの一貫!


『見て見て!これ可愛くない?』


可愛い赤色の石の付いたヘアピンを頭に翳して、篤志に聞いてみる。
すると篤志はちょっと考える素振りを見せた。
(篤志……似合わないって言うのか)


「…どっちかって言うとお前はこっちだろ」
『え?』


篤志がパッと並んでいたオレンジ色のピンを手にとって私の髪に差した。
今まで無関心そうだった篤志と売って変わってのちょっと予想外だった行動に目を丸くしたのは秘密。


「そっちの方が似合ってる」
『あ、ありがと……わっ…!でもこれ地味に高いなぁ…』

「いくら?」


私は無言で値段の書かれたシールを指さした。
たかがヘアピンだけど良いお店で買ったら高いよね……。
予想よりも0の数が一桁多い。
買ってくれないかなぁなんて淡い期待を持ったけど篤志は「ふーん」と言うだけだった。
…まぁ私の物だったし気にしないけどね。

その後もお店を回っては見て回っては見て。
結局何も買わないまんまだったけどそれはそれで楽しかった。
だが時間はいつの間にか過ぎていく。
腕につけた時計を見れば既に短針は6を差そうとしている。


『やばっもうこんな時間』
「出るか?」
『うん。わー…長いこと付き合わせてごめんね篤志』

「気にしてねぇよ。…悪いと思うんならちょっと待ってろ」


慌てて店を出たとき、頭に手を置かれてなぜか篤志がもう一度店に入っていった。


『…どうしたんだろ?』


後ろ姿を見つめて呟いても篤志は店の中。
大人しく待っていればすました顔で篤志がやってくる。


『なんか忘れたの?』
「…まぁそんなとこ」


パッと手を繋がれ行きとは違い今度は私は手を引っ張られた。
前のめりになりかけたけどそれとなく篤志が支えてくれる。
ツンケンしててもこういった所は妙に優しいなんて狡い、なんて思うけど彼氏だから許してやろうと思う。


『あれ?ポケットに何か入ってない?』


触れてしまった上着のポケットからカサリと音がする。
ポケットを指差してみれば篤志がばつの悪そうな顔をした。
何か悪いものでも見つけちゃったかなと思ったけど篤志は1つため息をついてそのポケットに手を突っ込んだ。


「ほら」

『え?これ……』
「やる。受け取らねぇなんて却下だからな」


私の髪に添えられたオレンジ色のヘアピン。
篤志が似合うと私に選んでくれたさっきのヘアピンだった。



「デートぐらいカッコつけるのが男ってもんだろ?」



そう言って私の髪に口付けた篤志に『ばか』と思わず悪態をついたのは別の話。




表に出さぬ

(そんな愛)
(なんだか篤志らしいよね)

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