_
背後から感じる体温。
その温度はただ単に背もたれのある椅子に座っているから、と言う訳じゃない。
可笑しいなぁ…どうしてこうなったんだろうね。
『京介、離して』
「嫌です」
…はぁ。
そうなんです。実は私背後から京介に抱きしめられてます。
前までツンケンしていた京介は所謂私の彼氏というやつで。
今思えばあのツンケンは表現の裏返しからだったんじゃないか…。
嘘みたいに角が削れて丸くなった京介は現在かなりの甘えたになっている。
離す気配のない京介に本当に1つ年下なだけなのか疑問になるけどそれは置いといてやろう。
でも抱きしめられたままでもマネジの作業はできる。
京介を気にしないで重ねられた使用済みのタオルをたたんで行く。
すると反応をしない私に機嫌を損ねたのか腰に回された腕にちょっと力が入った。
『なんなの?』
「…構ってください」
『………』
「………」
…こんな目付き悪いのになんでこんな子犬みたいなんだろう。
不思議に思うけど私には京介に犬耳の幻覚が見える。
『…よしよし』
思わず頭を撫でてしまった。
重力に逆らって天に向いている筈の京介の髪は意外に柔らかい。
背後にいる京介の頭を撫でる体制は結構辛いけど許すとしよう。
「…子供扱いは止めてください」
『構えって言ったの京介でしょ』
「………そうですけど」
ふてくされているのが顔を見ないでもわかる。
そんなこと言ったって私はこの手をどける気はない。
構えって行ってから構ってるだけだし。
パシッ
『あ』
私の腰に回っていた腕が片方離れて腕が掴まれる。
「やられっぱなしは俺の性に合いません」
『!』
急に自分の髪に京介の顔が埋められた。
びっくりして肩を上げたけどなんだかこれすらも犬の仕草に見えてきた。
まるで自分のものだとマーキングするような。
いつもはあんな人に懐かないって言うのになんで私にはこんなんなんだか。
周りの皆はもう慣れたとでも言うように私たちをスルーする。
まぁ京介のこれに対して何か言われるのも面倒だしいいんだけど。
京介が背後でもぞりと動く。
動くときは言って欲しいんだけどな…。
『今度はなに』
背後から抱きしめられる形から向かい合う形に抱え直される。
そろそろ仕事が手につかなくなるからやめて欲しいんだけどなぁ。
「名前先輩の顔が見たかっただけです」
そして私の頬からリップ音が聞こえた。
全くこの後輩はなんでこんなに私を振り回すのだろうか。
冷たくあしらっても付いてくる。
そんな所が可愛くて京介と付き合ってるのかなぁなんてことを思いながら私は黙々と手元でタオルをたたむのだった。
借りてきた犬の様
(相変わらず剣城はの相手は大変そうだな〜)
(…まぁ慣れれば可愛いもんなんじゃない?)
_