学生の昼下がり、まず行うことと言えば食事。
弁当を持って来ようがなかろうが食堂でSクラスの友人達と一緒に昼飯を食べることが板についてしまったAクラスの面々。
今日学食?いや弁当、なんて会話が所々で伺える。


「あ!」
「ん?どったの那月」

「お弁当…忘れて来ちゃいました……」


鞄を開き肩を落とす那月に音也がドンマイ、と落ちた肩を叩いた。


「げ、元気出してください四ノ宮さん!」
「そうだって!俺のオカズもわけてやるからさ!」
「でも…皆に食べてもらおうと頑張ってきたのに…」

「「「「…!」」」」


音也と春歌だけでなく黙って様子を伺っていた真斗と友千香の背筋も思わず凍り付く。
那月の弁当…あれはある種の兵器だ。
食べたら最後、腹痛に始まり頭痛・吐き気等に数日間悩まされる羽目になるだろう。

残念です、という那月には悪いが忘れてきてくれて助かったと思ったのは言うまでもない。


「そ、それよか早く食堂行こうぜ!」
「そうよね!混んじゃうかもしれないし…」
「来栖達を待たせるのも悪いしな」
「はいっ!」

「う〜ん…あ、」


弁当の事はすぐに忘れてほしい願望のもと那月を食堂へ誘導しようとすると、窓からピピピと小さな小鳥が那月の元に飛んできた。
那月はそれを拒みもせず、まるで会話をするかのように微笑みかける。
神秘的とも言えよう光景に春歌が少し感動しているとピピピ、と再び小鳥は飛んで行ってしまった。

小さな羽音をたてて大空を飛ぶ小鳥をじっと見つめ、再度那月はう〜んと腕を組んだ。


「四ノ宮さん?」
「……皆さん、今日は中庭に行きませんか?」


「「「「中庭?」」」」


疑問符を浮かべた面々に那月ははい、と微笑む。



「ちょっと皆さんに紹介したい人が来てるみたいなので」



小鳥さんが教えてくれました、と笑う那月に、誰だろうと疑問符を浮かべながらとりあえず既に食堂にいるであろうSクラスの3人を呼びに行くことにした。











「…で、中庭になったのかい?」
「今度は一体何なんです?」
「さぁ?」
「なんでも四ノ宮が…」
「私たちに合わせたい人がいるとのことで…」

「まぁまぁ、翔ちゃんなら知ってる人ですよ〜」
「…俺?」

「ちょっと翔、誰なのよ!」
「えぇ!?知らねぇよ!」


そんな会話を交わし柔らかい芝を踏み中庭を歩く。
イケメンと部類されるであろう人物たちが結構な人数で中庭を闊歩する姿はなかなか見られないだろう。
思わず人が道を開けてしまうようなオーラ。
流石アイドルコースのトップを争うような人たち、と言えばそれまでなのだがこの世界を生き残る術を無意識に身に付けている彼らはある意味怖いものなしだ。




「あ、いたいた」



那月の緊張感のない言葉にパッと視線を前方へ向けた。
するとパタ、と羽音をたてて小鳥が横を飛び去っていく。

小鳥に気を取られ、その小鳥を思わず視線で追うと、小鳥が飛んでいった先に1人の人物が佇んでいた。



『ふふ、おいでおいで〜』

「「「「「「!!」」」」」」



少し伸ばした人差し指、視線の先に飛んでいった小鳥。
柔らかい空気を纏いふわりと微笑む姿は面子の中にいる人物に瓜二つだった。


「…は!?…名前!?」

『…?……!お兄ちゃんっ!翔ちゃんっ!』
「うおぉぉおっ!?」



翔の声に振り向いた人物は浮かべていた笑みを更に深くして勢い良く翔に走り出した。
急な動きに驚いて周りにいた数羽の小鳥が全て空へと飛んでいく。
それをものともしないで翔へ抱きついた名前、と呼ばれた人物。そしてその口から出た兄という単語。
有無を言わせないのは何といっても纏うオーラ。


「…シノミーの……妹…?」
「……の、ようだな…」

『久しぶりです翔ちゃん!元気だった?』

「とりあえず離れろ!はーなーれーろー!」
「相変わらず仲がいいですねぇ…それ、僕もぎゅー!!」
「ちょ、那月おま…折れ……!!」

「…とりあえず、止めないと翔がどうにかなりますよ」
「そ、そうですね…」


自分たちの世界を作り出してしまうこの兄と妹に一同はやはり遺伝子を感じざるを得ないのだった。






不思議くん不思議ちゃん

(四ノ宮名前です。今日は小鳥さんに呼ばれて来ました〜)
(……さすが那月の妹だよね…)
(天才とあれは紙一重なのかしらね…)

(…いい加減にしてくんねぇと俺の身が持たねぇ…)

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