藍色の髪が靡くような印象的な後ろ姿。
背筋はピンと真っすぐに正されており、後ろ姿だけでもその性格までが伺える。

レンはその後ろ姿を知っていた。

ただ、今あえて自分の記憶とその違いを上げてみるとしたら格好だろう。
見覚えのある古風なセーラー服。

そう。あれは夏にAクラスの3人と水球勝負した時の共に罰ゲームを受けた友人の着ていた服に類似していた。



「やぁイッチー。それ、またボスからの罰ゲーム?」
『……』



この近距離、声が聞こえなかった、と言うことはないだろう。
だがその人物は振り返ることも反応を示す訳でもなく無言でスタスタと廊下を歩いて行く。



「おいおいイッチーってばシカト?しかも今度は何?胸まで作っちゃって……メロンパンでも入れてるのかい?」


ふにっ


「……は?」


冗談半分で背後から揉んでみたその感触は明らかにパンなどではなかった。
そしてこの時、レンは完全に見誤っていた。

トキヤの身長はこんなに低くないということを。


パァァン


振り返る遠心力の全てを乗せた渾身のビンタがレンの頬に炸裂する。
綺麗な紅葉が咲き1m程宙を舞ったレンに何事かと人が集まるが吹っ飛ばした本人は1oも動揺を見せず冷たい視線をレンに投げかけた。


「なんかスッゲー音したけど…ってレン!?」


人が集まってきた間を小さな体でくぐり抜け、翔が人混みから抜け出した時、最初に目に入ったのは廊下に倒れ込んだレンの姿。


「トキヤ…レンにからかわれてキレたのはなんとなくわかったけど何もここまで……」


翔がこの一瞬で判断したのはトキヤがレンに女装姿をからかわれた、という通りだった。
女装ですらも完璧を目指しそれをからかい制裁を受けたレン。
翔だけでなく誰もがそう思ったことだろう。




『なにを勘違いしてるんです』




凛とした高めの声が廊下に響く。
女装したトキヤ…かと思われた人物から発された声は明らかにトキヤのそれとは違うものだった。

嘘だろ、翔がそう思った時耳に入ってきた会話は随分恐ろしいものだった。



「名前、だから来たなら連絡しなさいと言ったでしょう」
『すいません。ケータイの充電が切れてしまったもので』

「えぇ!?は!?ちょ、トキヤ!?」

『頼まれたのはこれだけでいいですか?』
「はい。学校帰りにわざわざすいません」


小さいトキヤと大きいトキヤが喋ってる。

混乱した頭では既にまともにものを考えるのが困難になってきたころ、やっとその混乱を理解したのか紙袋を受けとった大きなトキヤがあぁ、と一声。



「彼女は私の妹、一ノ瀬名前です」
『……一ノ瀬トキヤじゃありません』


「…………………えぇぇぇえぇ!?」



クールに見えてやることなすこと全てが突然なトキヤ。
さらりと言ってのけたトキヤ、そして名前に翔が絶叫したのは言うまでもなく。

学園内に響き渡った叫び声に、一ノ瀬兄妹は仲良く並んで耳をふさいでいた。






勘違いは程々に
(ところで兄さん。この不躾なセクハラ男を海に沈めても?)

(いいと思います)(いいと思う)

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