『すいません美しいお姉さん方。少々道をお聞きしても?』


廊下に出来た人集り。
春歌を引き連れ友千香が野次馬に出てくれば、その人集りの中心人物がひときわ目立つオーラを纏い2人のもとにやって来た。


「(わぁ…美人さんです!)」


サラリとなびく長いオレンジ色の髪に大胆にも着崩された制服。
水色の力強い眼光に漂う色気。春歌と友千香は違和感を感じる。

そして歯の浮くような甘い言葉遣いはどこか感じたことがある。


「あ…アンタもしかしてファッションモデルの名前?!」
『おや、貴方のような美しい方に名前を知られているなんて…光栄です』


スッと片足を引き、腰をお折る姿はまるで紳士のようだ。



「モデルさんなんですか!?」
「え!?春歌あんた知らないの!?」
「は、はい…すいません…」

「14歳にして有名ファッション誌"Song☆Princess"の専属モデル!あの神宮寺財閥の長女で今後は他の仕事にも手を伸ばすって専らの噂よ!!」


友千香が捲し立てるようにはるかに説明すればぱちくりと春歌が目を見開いた。
そしてバッと視線を移せばニコリとやはり見たことのある笑顔。


「じじじじじじ神宮寺さんの妹さんですか!?」

『焦らないでいいですよ』
「す、凄いです!私たちよりも年下なのに…!あ、もしかして今日は神宮寺さんに?」
『はい。それでお姉さん方に案内願いたくて』


チラリと視線を向けるは辺りの野次馬達。
あぁなるほどと友千香は納得し、春歌も喜んで案内を名乗り出た。
ありがとうございます、と笑うその美しさに同性ながら春歌は赤面してしまう。

その反応に更に気をよくしたのか名前は笑を深めた。


『お姉さん方、お名前をお聞きしても?』

「ほんっと似てるわねー…アタシ渋谷友千香。で、こっちの真っ赤になってるのが七海春歌よ」
『よく言われます。友千香さんに春歌さん…可愛らしい名前です』


あの兄あっての妹、といったところか。
完全に春歌の手綱は握られたようで友千香はあははと苦笑いを漏らす。

Sクラスは目と鼻の先。
まずは春歌と友千香が教室から顔をのぞかせた。
すると案の定数人の女子生徒に囲まれた神宮寺レンの姿があった。


「あ、いた!」
「神宮寺さーん!」



2人が声を張り上げてレンを呼べばレンは周りの女子生徒にウインクを1つ。
悠々と、そして堂々とした様子で2人の元へ歩いてくる。


「オレを呼んだかいレディ達……………って」

『ご無沙汰ですね兄様』


レンの表情が一瞬凍った。
そして名前の目も春歌達といた先程までと打って変わって一瞬釣り上がり、不敵な笑を見せる。

ただならぬ兄と妹の雰囲気。
春歌と友千香は思わず息を飲む。


「名前…どうしてここに」

「は!?嘘名前ってあの名前!?」
「あれおチビちゃんどっからきたの」
「どうだっていいだろ!つかチビ言うな!うわすっげ、マジでレンそっくりだ」


冷めた空気を切り裂いて飛んできたのは翔だった。
レンと名前を見比べスゲースゲーと言葉を繰り返す様は小さな子供の様。


『兄様のご友人です?』
「おう!俺は来栖翔!将来ビックなスターになる男だ!」


胸を張って言い張る翔。
その空気に当てられ名前は表情を切り替える。

レンも同じくいつも通りに戻りレンの頭を帽子の上から押さえつけた。


「おチビちゃんがどうやってビックになるって言うんだい?」
「煩い!」
『大丈夫。背は小さくともアイドルにはなれますよ』
「だからうるせー!」


14歳にして女にとっての長身である名前に言われても嫌味にしか聞こえない。
ちくしょうと悪態を付く翔を見て春歌と友千香は顔を見合わせた。


「ホントそっくりです…」
「…イヤなとこ似ちゃってるわね……」


こうして名前はレンの妹としてしっかりと認識されてしまったのだった。




似たもの兄妹

(……なんでレンが2人いるんです)
(あれ?トキヤ知らねーの?レンの妹の…)
(いや…知ってますけど……まさか並ぶとここまで似ているとは……)


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