次の授業は移動教室。
音也は前の時間うっかり居眠りをしていたせいでふと目を開けてみると教室には目の前に立っている那月以外の人影がなかった。


「…あれ?那月、真斗は?」
「あ、起きたんですねぇ音也くん。真斗くんなら先に行っちゃいましたよ」

遅刻するのはごめんだーとか言って。
笑いながら言う那月に時計を見ればあと5分でチャイムは鳴るような時間だった。
げっと声を上げ慌てて教本の準備をし、教室を出る。


「やばいじゃん!那月ごめん!」
「別にいいですよ」

「とりあえずダッシュ!」


遅れることもなく那月も走り出し、これなら間に合うだろうと少しスピードを落とした。


『きゃっ!』
「うわぁっ!」


安心からか前方への注意を怠っていたのか、角を曲がったときに見えた人影に気付かず正面衝突。
前に前にと走っていた音也が止まれるはずも無く、2人して廊下に倒れ込んでしまった。


「いってて…」
『いたた……』
「あ、ご、ごめん!大丈夫?」
『いえ…こちらも人を探していて前方不注意だったので……』

「…わぁ、音也くん大胆です」
「へ?」


互いに体を打ちつけたらしく声を漏らしていたら那月がこの状況に思わず口を挟む。
今の状況。音也とぶつかった少女は音也の走り込んでいた勢いで押し倒すように倒れ込んでいたのだ。
状況把握が遅れていたのか改めて状況を把握したと思われる少女はふつふつと顔を赤くしていき、


『…っ!』

パァン


音也の頬に鋭いビンタをかました。























『も、申し訳ありません!!あの、その男性の方との面識があまりなかったので…!』

「いや…俺も悪かったし…気にしてないよ」


そういう音也の頬には赤く染まる紅葉型。
必死に少女が頭を下げればその度に青く長い髪が揺れる。
那月は笑いながらその様子をただただ傍観していた。


「それにしても…君、ここの生徒じゃないよね?」


改めて少女の姿を確認すれば、自分たちと同じか若干年下ぐらいのあどけなさを残した顔つきをしており、纏っている制服は早乙女学園のものではない。


『はい。この学園に探し人がおりまして…』
「そういえば、さっきも誰か探しているって言ってましたねぇ」
『クラスは分かっているのですが…如何せんこの学園が広くて…』
「あー…迷うよねぇここは」

「クラスはどこなんです?」
『Aクラスです』
「え!本当!?」


会話をするうち少女の探し人は自分たちと同じクラスだということが発覚した。
どうせなら一緒に行こうと誘えばありがとうございますと少女は礼儀正しく頭を下げる。


「ところで、誰探してるんですか?」
「だよね!名前とかはわかるの?」


探す以上、情報をもらうことをしなければ手伝うこともできない。
那月と音也が聞いてみると少女は少し悩むような素振りを見せる。
何か言えない事情でもあるのだろうかと思っていると少女はまぁいいかと割り切ったのか口を開いた。


『聖川真斗、と言えばわかりますか?』

「え?マサ?」
『え?ご友人です?』
「はい」


今度は少女が驚く番だった。
でもそれによって若干緊張が緩んだのか雰囲気が緩くなる。
その雰囲気になぜかデジャヴを覚え思わず音也は首をかしげたがその違和感は那月の言葉によって解決する。


「なんか…真斗くんに雰囲気似てますよねぇ」
「あ!それだ!マサに似てるんだ!」


音也がポンと手を打ち、少女を指さすと少女はあぁと声を上げる。


『自己紹介がまだでした』


ピタリと足を止めた少女に疑問符を浮かべ2人は少女を見やる。
礼儀正しく一礼。

そして





『私は聖川名前。聖川真斗は私のお兄様です』






刹那チャイムが鳴り、この瞬間2人は遅刻者ということになるのだが2人にはそんなことどうでもよくなる程の衝撃が頭に駆け巡っていた。







舞い降りた即興曲

(マサの妹ぉぉおぉぉぉおぉおお!?)
(可愛いなら何でもオッケーですよぉ)
(そういう問題じゃなぁぁぁぁい!!!)

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