「ん〜…」
『あ、あの…神宮寺さん…?』


Sクラスにて。
琴音が机に向かっていると、前の席に座っているレンがクルリと後ろを向いてじっと琴音を凝視していた。
だがレンは反応せず手を顎に添えて何かを考えるような素振りを見せたまま動かない。

顔の整ったレンに見つめられ、思わず顔を赤くさせるだったがなぜ自分がそんな状況に至っているのかが分からず、たまらずレンの名を呼ぶ。


「レディ、ちょっと顔を上げてごらん」

『え…?……っひゃ』


急なことに首を傾げようとした琴音だったが、顎に当てられていた指が伸ばされていることに気付きキュッと目を瞑った。
その指はスッと琴音の前髪に掛かり、長い前髪を耳にかける。
くすぐったくて声を上げるとその反応にクスリと笑うレン。
ほんのり赤くなった耳に触れていた指が離れて目を開けるとうん。と満足げな表情のレンがいて心拍数は上がったままになる。


「やっぱり、レディは前髪上げた方がキュートだよ」


恥ずかしげもなく言うレンにまた一段と胸は高鳴っていく一方で。
琴音は『な、な、』と声にならない声を口から漏らしている。


「おチビちゃん!」
「チビ言うな!」


そんな内にレンはなにやら翔を呼んでいた。
翔は真っ赤になった琴音とレンを見て何かされたのではと少し思ったがいつものことなので突っ込まないでおく。
ある程度レンが過ぎたスキンシップをしたのであれば琴音はもっと悲鳴をあげる。
今回はそんなこともないのでじゃれる程度のことだったのであろう。

「で、なんなんだよ…」
「えい」
「ってオイ!俺のヘアピン!」
「そう言うなって、ほら」

『え?え…?』


駆け寄った翔の髪に付けられていた赤いヘアピンが流れる様にレンにひったくられ、翔はそれを取り返そうと手を伸ばしたが如何せん身長の高いレンに取られてしまったヘアピンは取り返すことができない。
翔の手を掻い潜り、レンが慣れた手つきで目の前の自体に思考回路の追い付いていない琴音の前髪にピンを通す。


「せっかく可愛いんだから隠してたら勿体ないぜ、レディ?」
『で、でも、これ…来栖くんの…』


肌を刺さず髪を無駄に巻き込まないレンの手付に琴音が顔を上げるとレンがウインクを一つ。
赤くなりっぱなしの顔に更に熱が灯った。

だが前髪に添えられた赤い翔のヘアピンに思わず翔を見やる。
視界から前髪が消えたことにより少し見やすくなった視界に入った翔は若干頬を赤く染めていた。


「ったく…おチビちゃんが怒るからレディが変な気回しちまっただろ」
「だーかーらーチビ言うな!……琴音、それやるよ」

『え?』
「返すのナシ!その…確かに……そっちの方がか、可愛い、し」
『…!』


レンの思惑道理になるのは釈だが、実際に自分がそう思ってしまったのだから仕方ない。
琴音にそう告げた翔は、赤くなった顔を隠すため帽子を深くかぶり直した。




広がる視界

(おーおー真っ赤になっちゃって。思わず食べたくなっちゃうなぁ)
(テメェレン…琴音に寄るな変態!)

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