「琴音ちゃんてどうしてジャケット腰に巻いてるんですかぁ?」

『え?…っきゃあ!!』
「四ノ宮!」
「いたっ」


音也のボイストレーニングの予定を立てるためAクラスにやって来ていた琴音。
互いの予定を合わせ、これでいいかなと思っていた時那月がふとした疑問を口にしながらその原因である琴音のジャケットを背後から上へ引っ張る。

その行為はさながらスカートめくりの様で。

思わず琴音は真っ赤になりながら悲鳴を上げてジャケットを押さえつけ、傍にいた真斗が同じく真っ赤になりながらスパンと那月の頭を叩いた。


「何するんですかぁ」
「何じゃない!嫁入り前の女子に何をしている!」

「琴音!出てこいって!大丈夫だから!」


あまりの突然さに教室の掃除用具ロッカーに身を隠してしまった琴音にフォローを入れるべく慌てて音也が声をかける。


「おいでおいで〜」
「那月。琴音は猫じゃないぞ」


その後少しずつ姿を見せる琴音に那月が今度は抱き着きに行こうとするからまた大変だった。
那月をなんとか2人がかりで押さえつけた様子を確認しながらビクビクして時間をかけ、音也の席まで戻ってくる。


「やっぱり可愛いっ!」
『!』

「あ……音也くんいいなぁ…」
「自業自得だ」


ササッと今度は音也の背中に控えめに隠れ、那月が羨ましそうな視線を向ける。
そしてなかなか4人は落ち着かないままであったが、琴音が先程の那月の質問を口に出した。


『四ノ宮くん…あの、ジャケット、なんだけど』
「あ、そうですよ。なんで巻いてるんです?」


質問をしたのは那月であったが、確かに2人もその事は気になっていた。
いつもいつも、というわけではないものの気付いたら琴音の腰にはそのジャケットが巻かれていることが多い。
特に気にしないと言えばそれまでなのだがこうして話題に上がったからには気になる。

じっと3人が琴音の答えを待っていると、若干顔を赤らめたまま琴音はぽつりと呟いた。


『ここの学校……スカート短い、から……』
「「「スカート?」」」

『さ、さっきの四ノ宮くんみたいに、ちょっとめくったら見えちゃいそうだし…!でも長くもできないし…それで』


あぁなるほどと思わず手を打つ。


「確かに…目のやり場に困るよりかはいいが…」
「でもさ、冬になってもそれだと寒いんじゃない?」
『そう…なんだけど……足元も、寒いし……』

「じゃあ僕のジャケット貸しますよぉ」
『え?』
「いや、四ノ宮のは流石にサイズが大きいだろう」


そう言った真斗に、音也は速やかに自分のジャケットを脱ぎ琴音の肩にふわりとそれをかけた。


「じゃ、俺の貸すよ!それでもちょっと大きいだろうけど…」
『で、でも…いいの?』

「いいのいいの!」
『あ、ありがとう』
「女子が体を冷やすのは良くないだろう」
「なんかぶかぶかの服着てるのって可愛いですよねぇ…」

『!』

再び琴音に抱きつこうとする那月から逃げるように自分の教室に走っていく。
駆けていく琴音の後ろ姿に、自分のジャケットを着ているというのを妙に実感して音也はちょっと嬉しくなった。







彼のジャケット。略して彼ジャケ

(おや?琴音、どうしてジャケット2つあるんです?)
(あ、えと、これ…音也くんが…)
(おっ、やるねぇイッキ。彼シャツならぬ彼ジャケってか)

(…!)

(あ、琴音赤くなった)

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