『エースさん、私に何か隠してませんか』
「な、何言ってんだよエル。俺がお前に隠し事なんて…」
『…ホントですか?』
「あっ、当たり前だろ!」

『……でも「っと悪ィ!ちょっとマルコに呼ばれてっから俺行くな!」


両手を合わせて申し訳なさそうにしながらも、まるで私から逃げる様に大きな背中を見せて彼は食堂を去って行った。
もう、と私にしては珍しく頬を膨らませていじけてみる。
顔をずいっと近付けてみてわかったこと。エースさん絶対なにか隠してる。


「なんだエル、眉間に皺なんか寄せて」
『…サッチさん。何か知ってます?』
「何がだ?」

『エースさんの隠し事です』


これでも飲めと言わんばかりに目の前に付き出されたホットミルク。
ご厚意に甘えて一口喉の奥に流し込めば体中にじんわりとした温かさが広がる。

サッチさんは私の言葉にちょっと間を置いて笑い出した。
こっちは笑い事じゃないんですよってまたふてくされれば頭に大きな掌が降って来る。


「まぁ待っててやれよ。あいつはあいつなりに頑張ってるみたいだぜ?」
『…でも』
「話せないなりの理由があるんだって。わかってやりな」


そんなサッチさんの掌を感じ、机に突っ伏しながら自分の左手を見つめた。

きらりと光る指輪。

血の繋がっていない家族、そんな壁をさらにぶち壊したその上の家族。
どうせなら何かあったらすぐに話して相談して一緒に悩んで、という関係でありたかった。
なのに彼は同じ気持ちじゃないのだろうか。少し不安になる。

しかしサッチさんはずっと笑っていた。


「エルも明日になればわかるさ」


そう言ってまた私の頭を撫でる。

あぁ、まだホットミルク全部飲んでないのに。
温まった体は欲に素直で、襲ってくる睡魔に私は負けてしまった。

明日。
このまま眠ってしまった私の目が覚めたら。

全てはわかるのだろうか。


















「エース、お前も躱し方なってねぇな〜」


エルの意識が完全に飛んだことを確認したサッチが、エルの手からまだホットミルクの残ったカップをするりと回収する。

視線を合わせずに投げかけた言葉。
食堂の扉の影からうるせぇ、と悪態をつきながら現れた末っ子の姿にサッチはまた豪快に笑って見せた。


「エルの目見てたら隠し事なんかできねぇよ」
「そりゃわかるけどよ。露骨すぎたら不安にさせるだけだぜ?」

「…それでも隠さなきゃなんねーだろ」
「ったく、エルの為にもさっさと準備しろよ?」
「当たり前だっての!サッチの方も頼んだぜ?」
「お兄さんはちゃんと準備してますー」
「ならいいんだけど、よっ!」


バッとサッチの手から飲みかけのホットミルクを奪い取り、残っていたそれを全て胃へと飲み下した。
まだじんわりと暖かいホットミルクは優しい味で、相変わらずうめぇなと一言残してカップを机に置く。

そのまま机に突っ伏した彼女の姿に、エースはふっと笑みを漏らしてその小さな体を抱え上げる。
突っ伏していたせいか少し乱れた髪を器用に片手で直し、すっかり眠りに落ちているエルの姿を見てまた笑みを深くする。


「おうエース。送り狼になるなよ」
「なっ!!ならねぇよ!」

「どうだかな〜」


そんな会話を背に、エースは食堂を出て行った。
最後に見せたエースのまるで世界を慈しむ様な笑顔にサッチは何の心配もなく"準備"を進める。

さあ明日が楽しみだ。
我らが末っ子は一体どんな反応をしてくれるだろうか。