『…アンタさ、そんなとこにでかでかと刺青いれて痛くないわけ?』

そんなとこ、とマルコが指を刺されたのは上着を羽織っているだけで露になっている胸板。
大きく入れられた十字架と誇りのマークは逞しい胸板のアクセントと呼ぶには些か大きすぎる気もした。
ただの純粋な疑問。
そんなものをぶつけてくるとはリディアも相当気になっていたのか、平和な航海の中やることがなくて暇なだけか。


「別に入れちまえばなんともねぇよい」
『ふーん…そんなもん?』
「そんなもんだい」

『…まぁ親からもらった身体に傷付けるとかまずそこで訳わかんないけど』


そこまで言ってリディアは大きな欠伸をする。
女なのだから少しは口元ぐらい隠せ、といつものマルコなら言うのだが本日その声が飛んで来ることはなかった。
あれ、と疑問に思ったリディアがマルコを見やれば、彼女から言わせれば間抜け面なパイナップル。


『なにその顔』

「…リディアの口からそんな言葉が出るとは思ってなかったよい」
『は?言っとくけど私両親のことは好きだったからね。だから両親殺した海賊が嫌いで賞金狩りなんてやってたんだし』


いつの間にか自分が賞金首だったけど、とまた小さな欠伸をする。
なんとも皮肉なものだ。
憎んだ相手をただなぎ倒してきていたら自分が同じ土俵に立っていただなんて。
もういない両親が聞いたら笑うだろうか。それとも泣くだろうか。

きっと自分の両親だったら笑い過ぎて泣くだろうとリディアは思う。


『だからアンタらが羨ましいのかもね。海賊のくせに船員全員が家族ってやつ』


白ひげ海賊団はそれほどにまで今までにない、心地の良い海賊だった。
何の感心も持たずに命を奪っていった輩とは大違いで、温かみのある。

それはまさに"家"と形容するするに相応しいものだ。

家があれば家族、というものがある。
血の繋がりなんて関係ない。全員が白ひげを親父と慕い白ひげは全員を息子と呼ぶ。
もう自分を娘と呼ぶ人物がいなくなってしまったからこそ、この願望は強くリディアの胸を占めるのだろう。


「何言ってんだ」
『何が?』

「ここを降りてない時点で、お前ももう家族だろうよい」


初めてこの船に暗殺者として足を下ろした時から何度か島に上陸して、それでもここを降りることができなかった。
離れることができなかったのは、リディア自身だ。



『…勝手に言ってろ』

「じゃあ好きにするよい」



親父はもうその気だけどな、と言うマルコにリディアは豪快に笑う白ひげの姿がすぐに思い浮かぶ。

―勝手な奴ら。

思いながらもそれに毒されている自分がいることには、絶対に気付いてやらない。
気付くにはもう少し、時間が欲しい。





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リディアの両親はバカみたいに明るい設定です
なので一応バカについて行く精神は持ち合わせています