うつらうつら、と頭で船を漕ぐエルの姿を珍しいと思った人物はこの白ひげ海賊団の中にどれだけいただろうか。
規則正しい生活をしているエルが寝不足だと、と前夜の見張りは誰だっただの風邪でも引いたかだの彼女を心配する声が上がっている。
しかし意識が軽く飛んでいるエルにその声は届いていなかったらしく。


「エル―っ?」


エースが目の前で軽く手を振ってみても反応はない。
どれだけぼーっとしているんだ、とこれまた珍しいエルの寝癖を見つけマルコまでもが椅子に座って船を漕ぐ姿を見つめている。


「エルの奴どうしたんだよい」
「な、いつもならきっちり髪も括ってから来んのに」

「あー、なんか昨日遅くまで本読んでたらしいぜ」
「本?」
「サッチ、なんで知ってんだよい」
「おいマルコ何だその眼は。昨日の夜エルが飲み物貰いに来てたから知ってんだよ」


いつもは括っている髪を下ろしている、そして焦点の合わない目で宙を見つめるエル。
どうやらサッチの言うことは本当だったらしく4番隊の数人はその姿を目撃していたらしい。
しかし言われてみれば確かに、前に留まった島でエルは数冊の本を買っていた記憶もある。

なるほど、と理解した2人。
時に何かに没頭するとこうして周りが見えなくなってしまう体質らしいエルだが、このままぼーっとしていてはいつか怪我でもしかねない。
あの寝不足具合なら普通に話しかけても頭は覚醒しないと思われる。
ならばどうやって目を覚まさせようか、とこの船の頭脳担当マルコが考えようとしたがそれよりもマルコの頭よりも先に動いたのはエースの体だった。


「エルー起きろーっ」

がばっ


効果音にするならそんな感じの音だろうか。
エルに抱きついたエースが船を漕いでいた体を揺らせばまた頭が1つ波を打つ。

あ、と気付いた時にはもう遅く。


「ほら起きろーっ」


この状況が理解ができなかったのか少しの間を置いて、それこそ発火したかのように赤くなるエルの顔。
ついには耳まで真っ赤に染まって悲鳴すら上げかねないその状況になってエースはまた1つ彼女との距離を近付けたのだった。



(!?)
(あ、起きた)