『あの、マルコさん?』
「エースならちょっと放っといてやってくれよい」

『え?』


エースを探して彼の部屋までやって来たエルに、その扉の前に待ち構えていたマルコは先制攻撃と言わんばかりに言葉の釘を刺した。
何でですかと口に出す前に不意に部屋からはぁーと大きなため息が聞こえ、マルコとエルは顔を見合わせて真顔になる。


『えっと…』
「…なんか敵の変な攻撃受けてどうやらネガティブになっちまったらしい」
『ネガティブに?』


どういう事だろうと思ったがそういう事なのだろう。
自分の思い描いている光景と実際の光景にどれだけ差が出るかはわからないが、とにかく今エースはネガティブな状態にある…らしい。
かといってなんで自分が部屋に入ることを制限されているのかと問えば背後から現れたサッチに男ってのはそう言うもんだと返された。

殆ど男しかいないこの船の上で男心を語られてもと思うがこればかりはしょうがない。
でもそう言われたら心配になるのが女心。
通してくださいとマルコとサッチに頭を下げれば今度は男同士、顔を見合わせて息を付く。


「…エルならエースを元に戻せるかもな」
「……じゃあ、頼むとするかよい」
『!はいっ』

「サッチ、エースがキレたらお前のせいだよい」
「えぇええ!?」


2人の会話を背にエルはエースの自室の扉に手をかける。
恐る恐るドアを開け、一体どんなエースがいるのか待ち構えていた先に。




「産まれて来なきゃよかった…」

『…!』




見るからにネガティブ全開。
黒い負のオーラを身に纏い、部屋の隅で足を抱えて俯いている姿はなんともいつもの彼らしくない。
しかしそんなことどうでもよくなるぐらい、エルは大きく瞳を見開いてタッとエースに駆け寄る。

そして




パァン




「「!??!?」」


扉の外で様子を伺っていた2人が大きく目を見開くが、鳴った音は確実にエルのビンタであった。


「………エル…?」
『…いくらネガティブでも…冗談でも…今度そんなこと、言ったら…怒りますからね…』


もう怒ってないか、と思っていたが正気を取り戻したエースが顔を上げた時、自分の頬に落ちてきた滴。
それはエルの瞳から流れており、座り込んでいたエースの傍に崩れこむエルの体。

途切れ途切れになった言葉も、鼻にかかるような掠れた声も。


『エースさんが産まれて来てくれなかったら………私…』

「…ごめん、」
『いやです、ゆるしません』
「え」
『……ちゃんとエースさんが、産まれたことに感謝しないと、ゆるしません』


両手の甲で必死に涙を拭いながら言う彼女が、瞳を真っ赤にしてまでそう言ってくれるエルが
どうしようもなく愛おしくなって、エースはその腕にエルを掻き抱いた。
驚いてもお構いなし。欲望のままに閉じ込めた小さな体。

その顔に耳を寄せて、エースは囁く様に言葉を吐き出したのだった。





「産まれて来れて、お前の傍にいれて嬉しい」






(だから)
(はやく泣き止めよ俺のオヒメサマ)



---------

あのボイスは初めて聞いたときシャレにならなくて切なくなりました